『家庭教室』
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SNSのカリスマが大切にする一対一のアナログな届け方
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
SNS上の反響は数字という、わかりやすい姿で表れる。いまやマーケティングに欠かせない要素だろう。ところが“バズっている”と“売れている”がイコールで結びつかないのがこの世界の怖いところ。「近年、SNS等で有名らしい方々の本が続々と刊行されていますが、正直いって苦戦しているのが現状です」(書店関係者)。つまりヒットの現場には、目に見えない変数が存在するわけだ。
今回取り上げるのは、発売からわずか2週間で重版出来(しゅったい)となった『家庭教室』。普通の大学生が家庭教師として、子供たちが抱える現代的な問題と真摯に向き合っていくストーリーが話題を呼び、現在3刷3万部。めでたく4刷も控えており、勢いはまだ止まりそうにない。
作者の伊東歌詞太郎は本書がデビュー作となるが、もともと動画投稿サイトで圧倒的な人気を誇るシンガーソングライターだ。心の機微を繊細にすくいとる歌詞は若い世代から絶大な支持を受け、Twitterフォロワー数は実に74万人にのぼる。だが、その数と売上が比例するわけではないことは前述のとおり。「そもそも伊東さんは“フォロワー数”というものをほとんど信じていない」と担当編集者は語る。
「私たちの本を読んでくれるのはあくまで生身の“人”であって、数字はただの記号にすぎないということを的確に理解している。だからこそ一人一人のお客さんの手に丁寧に届けられるようなやり方を常に模索されているんです」(同)
特筆すべきは出版イベントの濃(こま)やかさだろう。声優や有名作家を招いての朗読会&小説家ワークショップなるものに加え、全国津々浦々を巡るサイン会ツアーも実施している。結果、ファンの心をがっちり掴み、そのファンが友人や家族に直接薦めるという、有機的な連帯を生み出している。
以前も書いたことだが、SNSネイティブ世代―つまり10代はクレジットカードを使えないため、むしろ書店に足を運んで本を買う。だからこそ一対一のアナログな届け方がよりいっそう響くのだ。