家族全員が名探偵!? 推理の常識度外視のミステリー

インタビュー

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猫河原家の人びと

『猫河原家の人びと』

著者
青柳 碧人 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101801285
発売日
2018/06/28
価格
637円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

家族全員が名探偵!? 推理の常識度外視のミステリー

[文] 新潮社

青柳碧人氏
青柳碧人氏

このたび書籍化された青柳碧人氏の『猫河原家の人びと 一家全員、名探偵』は、ミステリマニア揃いの家族の中で一人だけ「名探偵なんて大っ嫌い!」な女子大生が主人公。ユニークな設定を考え出した著者・青柳碧人さんにインタビューしました。

 ***

――「猫河原家の人びと」の第一巻がいよいよ発売です。本誌ではシーズン2も連載中ですが、このシリーズの手応えはどうですか?

 家族全員が名探偵っていう設定は以前からやってみたいなと思っていました。でも、実際に書いてみると大変で。どの事件についても、主人公の友紀の推理だけじゃなくて、猫河原家のメンバーが勝手に繰り広げる推理も作っていくわけですから、普通のミステリの何倍も手間がかかるじゃないですか(笑)。その分、読者のみなさんにはたくさん楽しんでもらえるとよいのですが。

――猫河原家は、刑事のお父さんが持ち帰ってくる事件の謎について、みんなで楽しく挑戦するという変わった家族です。食事時には推理合戦みたいなものがあって、「よい推理」を提出するとお母さんがご飯をよそってくれるという……。

 デビューした頃から、僕はいろんな人が意見を出し合って事件が解決に進む、というのが好きなんです。「浜村渚の計算ノート」シリーズも、渚という探偵は一人だけど、彼女と一緒に捜査にあたる刑事たちにもいろいろ推理してもらっています。大学のサークルを舞台にした「ヘンたて」シリーズは「館モノで日常の謎で、短編で気軽に読めるものにしよう」と思って書き出したら、毎回誰が謎を解決するのかわからないという少し変わった作品になりました。前回の事件を解決した人が、次の回では推理を間違える……なんていう楽しさは、ある意味ではこの作品にも生かされているんじゃないかと思います。

答えがハズれでも「ダメな奴」ではない

――そもそも猫河原家のお母さんは、推理が正しいかどうかは気にしていないですからね。それぞれの推理の「面白さ」が合格だと、「まあ、素敵!」なんて言ってくれる。

 そうそう。どうでもいいんです、お母さんにとって真相は。真相がわからなくても、仮説や解く過程さえ面白ければそれでいい。シャーロック・ホームズだって、初対面の人に向かって細かな観察から仮説を立てて「朝早く起きて、駅まで馬車で来ましたね?」とか言ってみるけど、あれは相手が「はっ!」と驚くから正解なのかなと思うだけで、本当はどうだかわからないですし。
 僕にとってもニセモノの解決を考えている時が、このシリーズを書いていて一番楽しい時間かもしれません。第一巻の第二話「めらめら観音殺人事件」では、かおり姉(主人公・友紀の姉。紅茶を偏愛する日常の謎マニア)が「凶器は肉なんじゃないか?」と言い出して、犯人はそれをシチューに入れたと料理のウンチクを全開にして主張するわけですが、無理筋なのはたぶん本人も分かっていながら言っている。かおり姉はウンチク派ですからね。
「可能性を潰していくのがミステリの営み」みたいなことがよく語られて、それはそれで間違いなく大事なことですけど、僕は逆にいろいろな可能性を探していく楽しさも大事にしたいんです。ある可能性が潰されたことを示すための、あまり面白くないエピソードを並べるよりは、「一個一個の仮説がとんでもない方がいいな」という思いで書いているところはあります。
 もしくは、同じような事件があっても解決の方法はいろいろあるはずじゃないかっていう、ある種のユルさに惹かれると言いますか。「答えがハズれたからお前はダメな奴」とはならないミステリ。ハズれても誰も責任をとらない、みたいな感じ(笑)。

――この『猫河原家の人々』は、ミステリの系譜的に捉えれば、いわゆる「多重解決」ミステリになりますよね。でもユルさを大事にする多重解決って面白いです。

 描き進めながら、アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』は少し意識しました。『毒入りチョコレート事件』には六人の探偵役がいるんですけれども、それぞれが「弁護士」「劇作家」「作家」といった自分の職業からくる発想を生かして、“その人ならでは”の推理を提出します。もちろん真相に到達した人もいればハズれの人もいるわけですが、「正解ではないけど推理としての美しさは備えている」という意味では、読者はどの推理も楽しめる。

――猫河原家のメンバーは、お父さんは「刑事コロンボ」、お母さんは「家政婦は見た!」の市原悦子さん、二人いるお兄さんのうち変人の方は横溝正史の「金田一耕助」あたりを彷彿とさせますが……。

 そうですね。あと、かおり姉は岡崎琢磨さんの「珈琲店タレーランの事件簿」なんかを思い浮かべながら書いたりしていました。家族のそれぞれが有名な作品の探偵役っぽい推理を繰り広げることで、普段はあまりミステリに馴染みのない読者にも、「そうそう、ミステリってこんな感じだよ」というようなジャンルとしての魅力を味わってもらえるといいなと思います。もちろん、基本的な設定は“あの名探偵”だけど、性格はぜんぜん違うぞというようなところも含めて。
 まあ小説というものの構造上、どうしても先に出てくる推理はウソになりやすいという部分はありますけど、いろいろな選択肢を楽しんでくれたら嬉しいです。クイズの問題を作って相手を楽しませるのと近いんですよ。古い話ですけど、「クイズダービー」の三択なんて素晴らしかったじゃないですか。

――猫河原家の名探偵たちは、生真面目な友紀の思いつきそうもないトンデモ推理で刺激して、友紀の成長を優しく見守っているようなところがありますよ。

 どこかのコミュニティの内側だけで閉じている話じゃなくて、自分と違うものを持ち合わせている人への寛容さというか、それを大切にする価値観。仮説がいろいろあることが許されないって、息苦しいですからね。だから「猫河原家の人びと」では、友紀にできるだけたくさんの変人に出会ってもらいたいですし、主要登場人物だけじゃなくて、次々と現れるサブキャラも楽しんでもらえると嬉しいです。

――「猫河原家の人びと」って、実は王道のホームドラマであり成長小説でもあるんですね。シーズン2も楽しみです。

聞き手/本誌編集長・西村博一 写真/広瀬達郎

新潮社 yom yom
vol.51(2018年7月20日配信) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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