『アンデス古代の探求』 大貫良夫、希有の会編

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アンデス古代の探求

『アンデス古代の探求』

著者
大貫 良夫 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120050824
発売日
2018/05/21
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『アンデス古代の探求』 大貫良夫、希有の会編

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

文明の起源追った60年

 もし人類が別の惑星でゼロから文明を作ったら、どうなるか。そんなSF的な実験は不可能だが、アフロ・ユーラシア大陸と隔絶した南米のアンデス文明は、興味深い。ペルーの高地で、約5000年前から16世紀のインカ帝国滅亡まで続いたアンデス文明は、文字や車輪、馬、鉄器を知らぬまま、高度な石造建築や金細工、都市、強力な王権を築いた。

 日本のアンデス考古学は1958年、東大による遺跡調査に始まる。戦前、日本の学者は朝鮮半島や旧満州、内蒙古などで考古学的・民族的研究を進めたが、敗戦で引き揚げた。世界大戦という惨事を2度も招いた「文明」とは何か。戦後、文明の起源を探るため、泉靖一らは新大陸のアンデスを、江上波夫らは旧大陸のメソポタミアを調査研究した。

 本書は、大御所から中堅まで、日本のアンデス考古学をになう8人の学者を読売新聞記者がインタビューしたもの。内容は深いが、図版は豊富で、文体も会話体でわかりやすい。

 日本の学者は苦労と工夫を重ね、欧米と同等以上の研究成果をあげた。例えば「神殿更新説」である。従来の説では、まず農業が誕生し、経済的基盤の上に権力が生成し、神殿が作られる。が、日本の学者は、まず神殿が作られ、神殿を代々建て替えるため人集めの組織化や農業が生まれ、権力ができる、という逆順のプロセスを明らかにした。

 日本の学者は、植民地目線ではなく、現地の住民の目線で発掘調査を行う。貧しかった住民は発掘作業で貴重な現金収入を得ただけでなく、先祖の文化と歴史に誇りを持つようになった。例えばパコパンパ遺跡がある村では、祭りの仮装行列のとき、古代の神殿の女性、150年前の宣教師に続き、現代の日本人考古学者に扮(ふん)した村人が練り歩く。

 考古学は、その営み自体も歴史の一部となり、未来への希望をつむぐ。本書は、日本の国際貢献を考えるうえでも、さまざまなヒントに満ちている。

 ◇おおぬき・よしお=1937年生まれ。東京大名誉教授

 ◇けうのかい=アンデス考古学を支援する一般社団法人。

 中央公論新社 1800円

読売新聞
2018年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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