『日本政治史の中のリーダーたち』 伊藤之雄、中西寛編

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日本政治史の中のリーダーたち

『日本政治史の中のリーダーたち』

著者
伊藤 之雄 [編集]/中西 寛 [編集]
出版社
京都大学学術出版会
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784814001408
発売日
2018/04/05
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日本政治史の中のリーダーたち』 伊藤之雄、中西寛編

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

世界と向き合う近代日本

 今日の近代日本政治史研究における近代日本の肖像は、極めて精緻(せいち)で詳細なものとなっている。けれども、精緻さの反面、こうした学術知に触れる機会が一般の読書人に十分確保されていたわけではない。精緻化した歴史研究が全体的なストーリーをつないで提示しにくかった中で、一般書市場ではロマンチシズムや「気づき」重視の読み物が提供されてきた。そこで、ときには小さな事実の切り取りを誇大に意義付ける、全体感のないセンセーショナリズムが蔓延(はびこ)ることになった。こうした状況の中、「世界の中における日本」という近代に対する独自の取り組みの全体像からかえって遠ざかってしまう結果が生まれたと言えるだろう。

 本書は、まさにそうした需要に答える論文集である。第I部には近代日本の西洋文明との関係に軸足を置いた七つのストーリーが配置され、第2部にはリーダーシップの視点から五つのストーリーが配される。総論が各部を引き締める。本書を通じ、読者は最先端の研究で培われた知見に触れるのみならず、世界と向き合う近代日本の試行錯誤とその限界を、読み取っていくことができるのだ。

 国際政治、政軍関係理論を専門とする評者の目から見た時、想像力が刺激される章も多い。例を挙げるならば、第2部第四章の小山論文「田中義一と山東出兵」はイタリアやフランスが行った派兵と比較すると面白いと思った。一般に、近代日本には「特異な軍国主義」の精神があったとされがちだが、広く民主化途上の段階にあったという視点で捉えることができるからだ。

 また、内務官僚松井春生の国家総動員体制構想を扱った第I部第六章の森論文「総力戦・衆民政・アメリカ」は、戦争の国民化という流れを見抜いた先進官僚による構想を取り上げた白眉である。日本がひょっとすると道を踏み誤らず、政党政治のもとで産業が発展する福祉国家というパワーになりえた可能性を示唆してやまない。

 ◇いとう・ゆきお=1952年生まれ。京都大教授

 ◇なかにし・ひろし=1962年生まれ。京都大教授。

 京都大学学術出版会 4800円

読売新聞
2018年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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