<東北の本棚>分断とどう向き合うか

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<東北の本棚>分断とどう向き合うか

[レビュアー] 河北新報

 「福島の原発・津波被害は一種のハラスメントだ」と著者は言う。今も収束のめどが立たない原発事故は、集落、近隣、親戚、時には夫婦までもバラバラにした。
 この「バラバラ・ハラスメント」にどう向き合えばいいのか。進行形の原発事故を横目に見ながら、著者は「福島に生きる」ため、新生への道を探っていく。
 精神科医の著者は、東日本大震災、原発事故発生後間もなく、相馬市など相双地方の支援に乗り出した。NPO法人が同市に開設した「相馬広域こころのケアセンターなごみ」のスタッフらと連携。心の病を持つ人の訪問に始まり、災害が引き起こしたPTSD患者や、二次被害であるアルコール依存症患者へと支援対象を広げていく。住民組織への参加、福祉作業所のケースカンファレンスなども幅広く行ってきた。
 被災者はどんな悩みを抱き何を求めているか、どんなゆがみが生じているか、状況はこの7年間でどう変化したのか。支援活動を通して見たこと、感じたこと、人々の証言などを丁寧に記録した意義は大きい。
 豊かな自然を奪われたことを東京電力や復興庁に執拗に抗議し、怒り余って脅迫罪で逮捕された林業関係者。故郷への帰還を泣く泣く諦め、避難先に住宅を再建した男性。さまざまな人間模様は、原発事故の本質をくっきりと浮かび上がらせる。
 まず生活を成り立たせること、そして誰も孤立させないこと。活動を通して得た「結論」は、原発事故で傷ついた福島が新たな歩みを始めるヒントになるだろう。
 著者は1937年群馬県生まれ。現在は東京都内の病院に勤務する。広島、長崎の被爆者支援にも長く携わってきた。
 本の泉社03(5800)8494=1620円。

河北新報
2018年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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