式子内親王 奥野陽子 著

レビュー

3
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式子内親王

『式子内親王』

著者
奥野 陽子 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784623083602
発売日
2018/06/11
価格
3,780円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

式子内親王 奥野陽子 著

[レビュアー] 水原紫苑(歌人)

◆虚構に込められた歌の真情

 式子内親王(一一四九~一二〇一年)といえば、中世和歌のみならず、日本の詩歌の最高峰の一人であろう。本書は評伝の形で、式子の歌の類を見ない超越性の秘密に迫っている。歌に関わる者としては見過ごせない一冊である。

 百人一首でも名高い歌「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする」が、「男歌」すなわち女性歌人が男の立場で詠んだ作品であること、『源氏物語』の悲恋に死ぬ貴公子・柏木をイメージに持ち、さらにそれを超えた強く忍ぶ意志を詠歌主体が表出していることなど、冒頭から重厚な論述に圧倒される。

 著者は、式子内親王の三つの百首歌(ひゃくしゅうた)を精緻(せいち)に読み解き、虚構の境地の深化を明らかにする。隠者のように閉ざされた世界に身を置き、そこから自然や他者、自身の心を「ながめ」る最初のA百首歌。次のB百首歌になると、現実に散りゆく花に向かい、人にも呼びかけ得る力をもつ。

 そして、晩年の正治(しょうじ)二(一二〇〇)年に詠んだ「正治百首」では、この世の外から訪れる救いを象徴するような自然が詠まれ、強い忍びの果てにただ一度だけ逢(あ)う恋の劇が創作される。

・山深み春とも知らぬ松の戸 にたえだえかかる雪の玉水

・花は散りその色となくなが むればむなしき空に春雨ぞ ふる

・しるべせよ跡なき浪にこぐ 舟の行くへも知らぬ八重の 潮風

 神韻縹渺(しんいんひょうびょう)とした世界である。いずれも『新古今和歌集』に採られているが、集中でもとりわけ調べの高さが際立っている。

 ここに至って、虚構にこめられた真情が、独自の形而上学を生成する。天上的な式子の歌の世界の完成である。

 一巻のクライマックスは、生身の主体から、詠歌主体の虚構が生み出され、さらにその内におのれの真実が表象されるという、式子内親王の歌の弁証法的なダイナミズムの発見なのだ。  

(ミネルヴァ書房・3780円)

1951年生まれ。大阪工業大客員教授。著書『式子内親王集全釈』など。

◆もう1冊

『新古今和歌集』(佐佐木信綱校訂・岩波文庫)。式子の歌を多数選出。

中日新聞 東京新聞
2018年7月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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