一発屋が一発屋を語る 髭男爵“山田ルイ53世”の受賞作

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一発屋芸人列伝

『一発屋芸人列伝』

著者
山田ルイ53世 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784103519218
発売日
2018/05/31
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

「ルネッサーンス!!!」で一世風靡 当代一の芸談の名手、髭男爵

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

「未来には誰もが15分だけ有名になれる」とはアンディ・ウォーホルの言葉だが、この一瞬の栄光にすがって、長い“その後”を生きるのが、(本書の定義する)一発屋芸人たち。一発屋である自分を受け入れ、過去と現在の落差を笑いに変える。「ルネッサーンス!!!」の高らかな乾杯で2008年に一世を風靡した髭男爵の山田ルイ53世もそのひとりだ。

 つまりこれは、一発屋が一発屋を語る本――なのだが、同病相憐れむ要素は皆無。登場するのは、レイザーラモンHG、コウメ太夫、ジョイマンなど、先輩芸人を含む同業者たち。しかも、この本のために対面取材しているのに、的確すぎる分析と絶妙のたとえツッコミで容赦なく切り刻む。その爆発的な面白さは〈新潮45〉連載中から大評判となり、第24回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を(芸能人としては初めて)受賞したほど。

 たとえば、テツandトモは演歌だと喝破し、「彼らには、一発屋の悲哀もむしろ糧。悲しみ、苦しみ……全てを歌の力に変えるのが演歌である」と結論する。ギター侍で脚光を浴び、今は福岡で活動する波田陽区については、「大ブレイクという山の頂にヘリコプターで一気に運ばれ、斜面をスベり降り始め早や十数年、未だスベっている」と一刀両断。だがそれは「到達した山が如何に高かったか」の証拠であり、「もはや“負け”は波田の生業……彼は勝ち組なのだ」とつけ加える。

 僕が長年愛聴する文化放送「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(通称ルネラジ)でも、(自身を含め)売れない芸人のエピソードを面白おかしく伝える話芸がすばらしく、当代一の芸談の名手だと密かに思っているのだが、文章ではその芸にさらに磨きがかかる。あと一歩で文学になるところでぐっと踏みとどまるのは、お笑い芸人の照れか、矜恃か。ウォーホルの言に従えば誰もが経験するはずの“あなたの人生の物語”が胸に刺さる。

新潮社 週刊新潮
2018年7月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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