『金持ち課税』 ケネス・シーヴ、デイヴィッド・スタサヴェージ著

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金持ち課税

『金持ち課税』

著者
ケネス・シーヴ [著]/デイヴィッド・スタサヴェージ [著]/立木勝 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784622087014
発売日
2018/06/09
価格
3,996円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『金持ち課税』 ケネス・シーヴ、デイヴィッド・スタサヴェージ著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

社会の価値観を反映

 所得の不平等が強くなったら、社会は富裕層に課税するのだろうか。これはありそうなシナリオに思える。なんせ民主主義のもとでは「数は力」であり、貧困層と中間層の数は、富裕層の数を大きく上回るのだから。しかし著者らは、富裕層への税率(富裕税率)が、そのようには決まらないことを実証的に解きあかす。

 鍵となるのは公正の感覚だ。人間は自己利益に関心があるから、多くの人は高い富裕税率を支持しそうだ。だが人間は、社会の公正にも関心がある。過度の富裕税率を不公正だと考えるならば、それは支持しない。著者らはその歴史的な証拠のひとつとして、参政権の拡大と、富裕税率の上昇との、リンクが弱いことをあげている。貧困層や中間層は、選挙の影響力を獲得するだけでは、富裕税率を上げようとはしないのだ。

 それでは富裕税率を上げる要因は何なのか。著者らは、それは戦争だという。戦費の調達にお金がかかるためではない。生じた不公正を埋め合わせるためなのだ。世界大戦においても、富裕層は徴兵を逃れやすく、また軍需により利益を得ることが多かった。その埋め合わせとして、富裕税率を上げる要求が社会に高まった。失われた公正を回復するために、累進課税は強化されたのだ。

 この「補償論」は、すべての戦争で成り立つものではない。現在の局地戦争の多くは、徴兵ではなく志願兵によるものだ。また、兵器の高度化は、兵士の相対的な重要性を下げた。だから富裕層だけが負担を逃れている、ということにはならない。実際、近年ではイラク戦争やアフガン戦争の期間中、ブッシュ大統領は富裕税率を下げたのであった。

 所得の不平等が強いというだけでは、政府は、われわれは、富裕税率を上げようとはしない。もしそれを上げたいのならば、人々の公正感に強く作用する新たなロジックが必要だと著者らはいう。税制は、つくづく人間の価値観の映し鏡なのだと思い知らされる。立木勝訳。

 ◇Kenneth Scheve=米スタンフォード大学教授。

 ◇David Stasavage=米ニューヨーク大学教授。

 みすず書房 3700円

読売新聞
2018年7月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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