居心地の良い暮らしを実現? 「ヒュッゲ」を生活に取り入れるためのヒント

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居心地の良い暮らしを実現? 「ヒュッゲ」を生活に取り入れるためのヒント

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

HYGGE ~バツ2アラフィフこじらせキャリアウーマンの人生再生物語』(シャーロット・エイブラハムズ著、鈴木素子訳、大和書房)の著者は、デザインやインテリア関連のコラムを雑誌で連載しているというフリーのジャーナリスト。イギリス生まれのイギリス育ちで、バツ2で2人の息子を持つシングルマザー。現在は3人目のパートナーがいるものの、結婚も同居も予定していないのだそうです。

そんな彼女は自分の性格について、「負けず嫌いで頑固、議論が好きで、言いたいことははっきり言うタイプ」だと認めています。しかし、デンマーク人のライフスタイルの根幹をなす「ヒュッゲ(”居心地がいい時間や空間”の意)」と出会ってから、だいぶ丸くなったのだとか。ヒュッゲに関する書籍は以前にもご紹介したことがあるので、記憶に残っている読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ヒュッゲという言葉がデンマークで使われだしたのは、十八世紀。「これぞデンマークならではと誇れるもの」を生み出そうとしたデンマーク人が、ノルウェー語からとり入れたのが始まりです。デンマーク人はこの言葉に、じつにさまざまな意味を託しています。くつろげるインテリアもヒュッゲなら、友だちとの会話を楽しむ時間もヒュッゲ。でもその中心にはつねに「家」「避難所」というコンセプトがあります。つまりヒュッゲとは、冬の寒さや外界の厳しさから逃れて、ほっと一息つける場所なのです。(「“幸福度世界一”デンマークの“ヒュッゲ”とは」より)

本書は、ひとクセもふたクセもありそうな著者の生活を、ヒュッゲな毎日に変えるプロジェクトの実験報告書。ヒュッゲを実践した自分が、どう変わったのかを記しているわけです。きょうはPART 1「HYGGE by LIFE ――ヒュッゲな暮らし」中の「HOW TO HYGGE ――暮らしのヒント」に焦点を当ててみましょう。

みんなでつくって、みんなで食べよう

著者いわく、友だちや家族と食事をするのはヒュッゲそのもの。とくに家族が集まってキャンドルを灯し、暖炉の火で温まるクリスマスは、究極のヒュッゲなのだそうです。そしてヒュッゲなおもてなしは、原則的には肩のこらない、うちとけた、ストレスとは無縁のものなのだといいます。そうした基本的な考え方を踏まえたうえで、ここではヒュッゲならではの「おもてなしの秘訣」が紹介されています。

仕事を分担する

誰かが場所を提供し、料理はみんなで持ち寄るのがヒュッゲのスタイル。あるいは材料を持ち寄り、みんなで料理するという手も。ワインを開けて音楽をかけ、キャンドルを灯して、準備それ自体をヒュッゲなイベントにしてしまうわけです。

料理に凝りすぎない

デンマークのクリスマスの一般的なメニューは、ローストポーク、リンゴとプルーンをお腹に詰めた鴨のロースト、茹でジャガイモかカラメルポテト、紫キャベツを添えたもの。クリスマス以外なら、鍋ひとつでできる煮込み料理がオススメだといいます。ポイントは、よい材料を使うこと。そうすれば、材料が自分で仕事をしてくれるというわけです。そしてなにとり大事なのは、リラックスすること。

格式ばらない

テーブルセッティングも、料理と同じく控えめに。紙皿で出せというようなことではなく、食器洗い機に入れられないような豪華なディナーセットを掘り出してくる必要はないということです。

ゆっくり味わう

大切な人との食事は、ゆっくり味わうべき。スマートフォンは持ち込まず、たっぷり時間をかけて楽しもうという考え方です。 (79ページより)

時間に優先順位をつけてみる

ヒュッゲのコンセプトの中心にあるのは、家族や親しい友だちとすごす時間。それが完璧な過程をつくる秘訣だというわけではないにしろ、ヒュッゲの原則は良好な家族関係を保つのにとても役立つというのです。家族との関係をヒュッゲにするポイントは、次のとおり。

時間をつくる

デンマークは他国とくらべて労働時間が短く、休暇が長いので、余暇が世界一多いことになるそうです。しかし時間は、結局のところ優先順位。デンマーク人は、家族や友人と集まるために頻繁に時間をつくるというのです。理由は、そういう人間関係が人生において大切だと考えているから。

週に二晩は子どもたちとの夕食のために空けておき、水曜の夜は友だちとすごし、週に一度は同僚とランチをともにするというように、あらかじめ時間をとっているということ。時間割に沿って生活するのは、あまり大らかとはいえないかもしれませんが、これは大切な人と定期的に会うにはよい方法でもあるでしょう。

なごやかな会話を続ける

ヒュッゲな場では、意見が一致していることが大切。そのためには、政治、宗教、経済、子育てといった微妙な話題を避けなければならないこともあるといいます。

著者の友だちも息子たちも白熱した議論が好きなのだそうですが、重要なのは議論と言い争いは違うということ。言い争いは、ヒュッゲを一瞬でぶち壊しかねないわけです。

ちなみに現代アートの大御所であるグレイソン・ペリーは、タペストリー作品につけた次のようなタイトルで、ヒュッゲのコツを伝授しているそうです。「信念を語るときは、やんわりと」。

貢献する

ヒュッゲとは、そこにいる全員が、実際的な意味においても、社会的・感情的な意味においても、めいめいの役割を果たすこと。著者自身、ヒュッゲについて調査を重ねるなかで、「その場の会話や活動に全員が平等に参加していること」「心からそこに居合わせていること」が、ヒュッゲにとっていかに大切かということを実感したのだといいます。

全員が、うわべだけでなく心から、そこに居合わせることが大切。家族揃ってソファーに座って映画を観ていたとしても、誰かがSNSでチャットをしていたりしたら、それはヒュッゲとは言えないわけです。そのため、そんなときにはスマホを手の届かないところに片付けることも大切。

でも、度を越さない

ヒュッゲは平等主義。よってヒュッゲな集まりでは、誰かひとりだけが注目を集めるのは禁物。 (88ページより)

とりあえず挨拶から始めてみる

デンマークでは、全世帯の半数近くが独居世帯(欧州連合統計局による「EUの人々――世帯および家族構成に関する統計」によると、2013年の独居世帯の割合は47.4パーセント)。なのにデンマークの人々は、他のOECD諸国とくらべて行政の支援が行き届き、孤独を感じているようには見えないといいます。地域のなかで絆を育むことをヒュッゲとみなす文化も、その要因のひとつなのかもしれません。ヒュッゲと幸せを手に入れるために、試してみてほしいことがいくつかあると著者。

ご近所と知り合いになる

コウハウジング(生活共同体)運動の起こりは、1960年代後半のデンマーク。コペンハーゲンの郊外では50家族がそれぞれの家に住み、庭を共有し、共有施設で料理や食事、集会をともにしながら一緒に暮らしたのだそうです。

しかし共同住宅に住まなくとも、近所の人たちとヒュッゲな人間関係を育むことは可能。道ですれ違うときに挨拶をする、子守を交代でしませんかと提案する、月に一度は一緒にお茶をするなど、どんなことでもOK。相手との共通点は多くないかもしれませんが、近所に住んでいること自体がつながりでもあるはず。そしてそのつながりには、育てるだけの価値があるという考え方。

公園に出かけて談笑する

デンマークの人たちは、家にヒュッゲがたっぷりあるにもかかわらず、冬にも屋内に閉じこもらないのだといいます。都市部の人々は歩いたり、自転車に乗ってどこにでも出かけるというのです。そんな状況を見てきた著者は、近所の公共スペースに出かけるだけでも、地域の人との交流は生まれるものだと記しています。 (94ページより)

ヒュッゲが魅力的なのは、なにひとつ否定してないからだとも言えると著者は言います。寛大で、マニュアルも競技も、規定も禁止事項もなく、人生のなかでときどき休みをとって、あるがままを楽しむだけ。もしかしたらそれは、忙しい毎日を過ごす日本人にとっても必要なことかもしれません。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年7月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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