【聞きたい。】石原香絵さん 『日本におけるフィルムアーカイブ活動史』
[文] 藤井克郎
■先人たちの思いほとばしる
今年4月、国立映画アーカイブが国立美術館として独立したことで、映画フィルムの保存に対する世間一般の関心も高まっているように思える。だが明治以来の日本の動きを海外の事例とともに伝えるこの本を読むと、こんなにも多くの人が情熱を持って取り組んできた映画保存の努力が、一向に報われていない事実に愕然(がくぜん)とする。何しろ日本の劇映画で同アーカイブに所蔵されている残存率はわずか18・1%なのだ。
「よく日本人論に落とし込んで、日本は木の文化だから、どんどん建て替えていって残さないよね、と納得してしまう人がいる。私はそれがすごく嫌で、でも映画が大切なものなら残しましょうよ、と言いたくなるんです」
子供のころ、親につれられて小栗康平監督作などを見て、わからないなりに映画の深さに恐れを感じた。東京都内の上映施設で映写技師として働くが、フィルムのことをもっと知りたいと、日本人として初めて米ニューヨーク州にある映画保存学校に留学。フィルム修復の実習に歴史の講義にと、「まだそんなに研究されていない領域でわくわくした」と振り返る。
今回の著書は、2~3年かけて文献を調べ尽くし、学習院大学大学院の博士論文として提出したものを改稿した。戦後、フィルム・ライブラリー助成協議会を設立した川喜多かしこら、日本の映画保存活動に尽力した先人たちの熱い思いが行間からほとばしり、論文とは思えないようなダイナミックなドラマを描く。
「私が初めて映画保存の重要性に気づいたかのように言う人もいるが、ずっと努力は続けられてきた。それでも実現しなかったことがあまりに多くて、よっぽど頑張らないと物事は動かないんだなと感じます。でもそういうことを訴えていた人が昔にもいたという事実は、励まされるものですね」と、映画保存へのさらなる奮闘を誓った。(美学出版・3200円+税)
藤井克郎
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【プロフィル】石原香絵
いしはら・かえ 昭和48年、愛知県生まれ。米国のL・ジェフリー・セルズニック映画保存学校卒業。NPO法人映画保存協会代表。