『スキャンダル除染請負人』
書籍情報:openBD
小説で楽しみながら学べる 企業リスク・マネジメント
[レビュアー] 板谷敏彦(作家)
日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題は、単なる試合中の暴力行為にとどまらず、学校法人経営上のコンプライアンス問題にまで発展して世間を騒がせた。すこし前はテレビをつければ朝から晩までこの話題ばかりであった。
日大は危機管理学部という、まさにこうしたケースに対処する方法を伝授するための学部を擁しながら、肝心の広報活動は適正に機能しなかった。
一般的な危機管理の重要性を理解しながらも、いざ自分が当事者になると自身が危機に陥っていることをなかなか認識できない。この点こそが危機管理の重要なポイントなのだ。
この本は、永らく危機管理に携わってきたリスク・ヘッジ社の専門家が、危機とは如何なる状況なのかを、小説という媒体を通して理解しやすくかみくだいた疑似体験ノベル集である。さらにはそこから自身の危機の状況を把握して対策を立案するケース・スタディの教材にもなっている。
経営者の不倫、放射能汚染物質、ストーカー問題、クレーム対応、過重労働による従業員の自殺、企業内ウイルス、顧客データの漏洩、警察捜査への企業としての対応と、今日の企業では既に日常的に発生しうる問題がテーマとして取り上げられている。
国際比較で女性の社会進出が目立って遅れているのが日本社会の現状であり、やり手の魅力的な女性をこの小説の主人公に選んだのはそれを意識してのことだろう。一方で権威主義の老人として、元高検検事長上がりの弁護士を対極に配置してあるのも、企業だけでなく、現代社会にありがちな老害の象徴としてふさわしい。
文体は平易で読みやすく、ストーリーは全編繋がっている。企業リスク・マネジメントの娯楽ドラマとしても楽しみながら学べるメリットは大きい。