今月は“盗作疑惑”と“渡部直己のセクハラ”二つの事件に注目する

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今月は“盗作疑惑”と“渡部直己のセクハラ”二つの事件に注目する

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


すばる2018年7月号

 大きな事件が二つ起きた。

 一つは、先月取り上げた北条裕子「美しい顔」(群像6月号)の盗作疑惑だ。同作は芥川賞にノミネートされたが、直後、『群像』の版元である講談社が、ノンフィクション作家・石井光太の『遺体』(新潮社)などに類似点が見つかり同誌8月号におわびと参考文献を掲載すると発表した。参考文献は『遺体』を含めて5冊、うち1冊である金菱清編『3・11 慟哭の記録』の版元の新曜社も類似表現が10数カ所あると指摘、「誠意ある対応」と「開かれた議論」を求めるとコメントを出した。

 講談社は協議中であるとしていたが、7月3日、新潮社の「参考文献として記載して解決する問題ではない」との声明に対し「小説という表現形態そのものを否定するかのようなコメント」だ、「類似は作品の根幹にかかわるものではなく、(略)盗用や剽窃などには一切あたりません」と強硬な態度で抗弁、「広く読者と社会に問う」として「美しい顔」全文を無料公開した。日本文学振興会は候補作に変更はないとしている。

『〈盗作〉の文学史』(新曜社)の著者としては興味深い要素を複数含む案件で、別の場所で整理したい。

 もう一つは、文芸評論家・渡部直己のセクハラ事件である。早稲田大学大学院の現代文芸コースで教授を務める渡部から、「俺の女になれ」などと迫られた元院生の女性が告発したもので、『プレジデントオンライン』がスクープした。女性は同コースの主任教授に相談したものの口外しないよう口止めされ、早大ハラスメント防止室の対応にも絶望して精神的苦痛から大学院を中退、外部への告発に至ったのである。同コース准教授で『早稲田文学』制作総指揮も執る男性教員が隠蔽工作を行っていたとの続報も出た。渡部は退職願を提出したが、他の関係者は沈黙を守っている。大学は調査対応中としている。『早稲田文学』からは古谷田奈月「風下の朱」が芥川賞候補に上っており、こちらも選考に影響しそうだ。

 小説では、二瓶哲也「宮水をめぐる便り」(すばる7月号)の試みが、やや物足りないものの面白かった。

新潮社 週刊新潮
2018年7月19日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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