『「牛が消えた村」で種をまく』
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<東北の本棚>原発事故後の闘い追う
[レビュアー] 河北新報
福島県飯舘村は「までいな村」と呼ばれる。までいは方言で「手間をかけて」「丁寧に」の意味だ。までいに田畑を耕し、牛を飼ってきた人々の暮らしは、2011年3月の東日本大震災に伴う福島第1原発事故によって壊滅的な打撃を受ける。
事故から1カ月後に全村避難の指示が出され、までいな村は「誰も住まない村」になった。17年春に避難指示がほぼ解除されたものの、帰村する人は1割に満たない。
著者は、事故後の村の姿や故郷を捨てざるを得なかった人々の心の内、避難先での暮らし、ふるさと再生への思いなどを7年にわたり密着取材。写真絵本シリーズ「それでも『ふるさと』」全3巻にまとめた。
「『牛が消えた村』で種をまく」は、原発事故のため50頭の乳牛を手放し、避難した酪農家の「闘い」を見つめる。これ以上集落が荒れ果てていくのを何とか食い止めようと仮設住宅から村に通い、仲間と共に草刈りを開始。牧草地を耕し、ソバの種をまいた。農地保存につながると信じて。
「『負けてられねぇ』と今日も畑に」は、種まきから収穫まで7年かかるギョウジャニンニクの初収穫直前に原発事故に遭った夫婦の話。避難後も栽培を諦めず、新たに取り寄せた苗を育て収穫にこぎ着ける。「『孫たちは帰らない』けれど」は避難先で新たなコミュニティーを築き、帰村すべきかどうか迷う女性たちの本音に迫った。
いずれも原発事故とは何だったのかを、7年にわたる家族や村の物語を通して問う。人々の心の機微を捉えた写真は説得力がある。分かりやすい文章も印象的だ。
著者は1956年、静岡県生まれのフォトジャーナリスト。
農文協03(3585)1141=各巻2160円。