『君たちはどう生きるかの哲学』
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『君たちはどう生きるかの哲学』上原隆著
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
■不朽の書の独創性を読解
『君たちはどう生きるか』をどう読むか-。漫画版が出るなどしてベストセラーとなっている吉野源三郎の約80年前の本を、名コラムニストが丁寧に読み解いている。
37年前、哲学者の鶴見俊輔が『君たち-』(以下原書)について「日本人の書いた哲学書として最も独創的なものの一つであろう」と評しているのを知って、当時32歳だった著者は〈すぐに読んだ〉のだという。なぜ吉野の本を鶴見が哲学書と呼んだのか、どう独創的なのかを、わかりやすく伝えるのが本書だ。
原書では、主人公である中学2年生、コペル君の体験がつづられ(漫画版はこの部分が漫画)、それについて叔父さんが感想を言ったり助言したりする「ノート」が示される。本書は、その概要を記した上で、鶴見哲学と対比しながら、原書では行間に埋もれていたりもする〈どう生きるか〉の指針に、そっと光をあてていく。
「雪の日の出来事」という一節が印象深い(原書でも本書でも)。上級生に目を付けられた友人をみんなで守ろうと約束したのに、コペル君は見捨ててしまった。友人が殴られかけたとき、仲間2人は約束した通りに駆け寄ったのに、彼は動けなかった。叔父さんはのちに、落ち込んでいる彼に「勇気」という言葉を伝える。なるほど、と思いそうなところだ。
だが、著者は体験談を交えながら鶴見の「肉体の反射」という言葉を紹介する。コペル君が動けなかったのは「反射」がなかったから。精神的な問題ではなく、肉体的な問題なのだと。では、どうすれば行動できるようになるか-は、ぜひご一読を。「哲学」とは、行動であり生活術であるというのは、本書の大きなポイントにもなっている。
著者自身が、若いころに鶴見の言葉を「生きる」ための指針としていたこともあるだろう、等身大の文章にはすみずみにまで血が通っている。自らが「コラム・ノンフィクション」を見いだすまでの苦悩、鶴見との対話などは、まさに「どう生きるか」の実践として描かれ、しみじみと共感させられるはずだ。(幻冬舎新書・780円+税)
評・篠原知存(文化部編集委員)