サトウキビ畑をタクシーで――『沖縄オバァの小さな偽証 さえこ照ラス』著者新刊エッセイ 友井羊
エッセイ
『沖縄オバァの小さな偽証』
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サトウキビ畑をタクシーで
[レビュアー] 友井羊(作家)
沖縄を舞台にした法律エンタメ『さえこ照ラス』の続編を作るにあたり、一作目で出せなかった沖縄本島以外も舞台にしたいと思った。宮古島(みやこじま)や八重山(やえやま)諸島などは沖縄本島と地理上でも距離があり、文化的に大きく異なる点が多い。そのため一作目とは違った物語が描けると考えたのだ。
八重山諸島は訪れたことがあった。植生の違いや太陽光の鋭さ、方言の違いなど興味深い点は無数にある。食事なら本場の石垣(いしがき)牛は絶品だったし、キーツマンゴーは沖縄本島ではあまり食べることができず、なおかつ食感が最高なのだった。
しかし宮古島は未訪問だった。一度足を運ばなければ現地の様子は書けないと思っていたら、ありがたいことに担当編集者と一緒に取材に行けることになった。成果が得られるか緊張しながら挑んだが、結果的には大豊作だった。
まず、初日に貸し切りで宮古島観光をお願いしたタクシー運転手が大当たりだった。軽快なトークと地元に関する深い知識によって、必要最低限の情報は初日で全て得られたと言っても過言ではない。
さらに運転手はパーントゥという祭で重要な役割を果たすンマリガーにも案内してくれた。その時の生(なま)の情報は鮮烈に印象に残っている。実際に五感で体感しなければ、作中におけるパーントゥの描写はリアリティに欠けていたはずだ。
他にも取材での体験は数知れない。後に編集者から「本当にやるとは思いませんでした」と言われた自転車での宮古島縦断も雰囲気を味わうには最高だった。一面の青空と照りつける太陽の下に続くサトウキビ畑と広大な牧場は今でも記憶に焼きついている。
本作『沖縄オバァの小さな偽証』は取材の体験を存分に盛り込んだ。沖縄の魅力と空気感、そして土地に生きる人たちの息遣いが、少しでも読者に伝わればとても嬉しい。