人を繋ぐ、見えない力――『この世界で君に逢いたい』著者新刊エッセイ 藤岡陽子

エッセイ

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この世界で君に逢いたい

『この世界で君に逢いたい』

著者
藤岡陽子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912284
発売日
2018/07/20
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

人を繋ぐ、見えない力

[レビュアー] 藤岡陽子(作家)

 生まれ育ったのが随一のパワースポット京都だからか、「目に見えない力を持つ」人と出会う機会が多かった。

 高校時代の男友達の実家はお寺で、「親父は普通に霊を見るんや」と教室で話していた。彼にしても登校中に拾ったボストンバッグに猫の首ばかりが詰められていたり、やたら奇妙な体験をしていたのを思い出す。

 私自身も大学生の頃、友達と八坂(やさか)神社を歩いていると、通りすがりの男に「あんたの相には家庭運がない。お父さん大丈夫か」と突然話し掛けられたことがあった。その時は「なんやこのおっさん」と憤(いきどお)ったが、いま振り返れば当時の父には別宅があった。両親は永く不仲でいまは離婚に至っている。

『この世界で君に逢いたい』では目に見えない力が物語の中心に在(あ)る。

 主人公は久遠花(くおんはな)という十七歳の少女で、与那国島(よなぐにじま)で働いている。家庭に恵まれず島留学で東京からやって来た花だが、彼女にはずっと「探しているもの」があった。だが妙なことに、本人も「なにを探しているのかわからない」のだ。

 語り手は、島で花の保護を担う七十歳になる榮門武司(えいもんたけし)と、旅行者として島を訪れた二十七歳の須藤周二(すどうしゆうじ)。二人の男が花の「探しもの」を巡り、目に見えない力に導かれるようにして、思いもかけなかった地点に辿り着く。

 物語の舞台として与那国島を選んだのは、この島独特の死生観に惹かれたからだ。実際に島を訪れ、地元のガイドさんが「ここはアタる(霊的な力が強すぎて体調を崩す)から気をつけてください」と眉をひそめるような場所をいくつか回り、物語に取り込んだ。

 人は非科学的なことに関して、一線を引いて生きている。霊的なことを口にすると、同情的な表情をされたり。けれどこの、目に見えない力こそが、人と人を根っこのところで繋げているのではないかと私は思っている。

光文社 小説宝石
2018年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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