『火のないところに煙は』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
ミステリー×実話怪談の進行形
[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)
著者自身が、「小説新潮」の執筆依頼を受けたことから物語は始まる。〈神楽坂を舞台にした作品を集めた「神楽坂怪談」特集〉という企画に最初気乗りがしなかった〈私〉だが、それはかつて神楽坂で知った怪異の記憶を呼び覚ますことを怖れたからだった。〈私〉の脳裏に浮かんだ“染み”をめぐる八年前の体験が、恐怖を数珠つなぎに連れてくる。
〈私〉の友人の友人で、広告代理店に勤める角田(つのだ)さんと婚約者の男性が、当たると評判の〈神楽坂の母〉に占ってもらうと、結婚は不幸になるとの言葉が。以来、ぎくしゃくしたふたりの関係がある悲劇につながってしまう。後日、角田さんが仕事で関わった交通広告のポスターに付いた赤黒い“染み”は、まるで元婚約者からの怨念のようだった。さらなる恨みを怖れた角田さんに、お祓いの人を紹介してほしいと頼まれた〈私〉は、オカルトに詳しい知人の榊さんに相談する。すると、角田さんの婚約者の死という不幸の真相を、榊さんは理論立てて解明し始めるが……。この第一話をきっかけに、ライターの鍵和田と、狛犬に祟られていると訴えてくる女性とのやりとりを描く第二話の「お祓いを頼む女」、あらぬ噂を吹き込む困った隣人への恐怖を綴った第三話の「妄言」……人物や怪異がリンクしながら進んでいく。圧巻は最終話「禁忌」だ。全五話予定で進めていた単行本化にこの書き下ろしを加えた理由が、これまでの話を串刺しにする大きな恐怖をもたらす。
呪いや超常現象にしか見えない怪異を、榊の明快な推理で斬ることで、異様な背景が浮かび上がってくる。しかも一旦説明がついたかに見えたその先にさらに解けない謎が用意されているという趣向。先を読まずにはいられなくなる。
ちなみに、裏表紙についた赤い染みもよくチェックしてみてください。いやー、手が込んでる。