『本を読む。―松山巖書評集』 松山巖著

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本を読む。―松山巖書評集

『本を読む。―松山巖書評集』

著者
松山巖 [著]
出版社
西田書店
ISBN
9784888666251
発売日
2018/06/01
価格
4,968円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『本を読む。―松山巖書評集』 松山巖著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

作品受けとめる捕手

 少し前に出た井上ひさし、井田真木子との鼎談(ていだん)集(『三人よれば楽しい読書』)で、書評人として「速球や変化球も愉(たの)しむ」キャッチャーでありたいと述べていた著者が、三大新聞などを舞台に、新作をミットに受け続けた書評の集大成で、九〇〇ページ近い大冊だ。

 デビューは『カメラ毎日』、写真集が対象であった(第一作は濱谷浩『學藝諸家』)。建築家として、初期の新聞書評には建築・写真・都市論・芸術論が多い(ヴァザーリ『ルネサンス彫刻家建築家列伝』等、ユニークな選択)。だが、川村二郎の急死を受け、読売新聞読書委員に復帰してからの書評には、文学が目立つ。

 「歴史の波間で忘れかけた事象を見つめ直す作家」津島佑子への深い共感(『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』『狩りの時代』など)、井上ひさしの遺作『一週間』にその達成を見て、「未来へのメッセージ」を託されたという発言などが心を打つ。野坂昭如が最晩年まで単行本に収めなかった作品が、なんと原稿用紙一万枚分あったことにも驚愕(きょうがく)した(『20世紀断層』)。

 そういえば先ほどの鼎談では、「日本の書評は俳句だ」という中村雄二郎の発言が紹介されていた。わが国の新聞書評は、少ない字数でツボを押さえた紹介・批評を展開しないといけない。「俳句」的存在は、日本の大新聞における書評の宿命である(例えば、フランスの高級紙ル・モンドは発行部数としては三〇万に満たない)。制約のなかでの三〇有余年の捕手稼業、プロの「書評家」の貴重な記録ともいえよう。

 雑誌「文學界」連載の長文書評では、ミシェル・トゥルニエ『メテオール(気象)』論が圧巻。双子というトゥルニエ作品に不可欠の物語装置を精緻(せいち)に分析し、今の時代に神話的世界を描く必然性を説き、「現代の神話」が受容されぬこの国の文学的状況に寂寞(せきばく)の感を表明するが、双子的なエッセイ『イデーの鏡』の訳者として同感だ。

 ◇まつやま・いわお=1945年、東京都生まれ。2012年、建築学会文化賞受賞。著書に『うわさの遠近法』など。

 西田書店 4600円

読売新聞
2018年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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