『炎上とクチコミの経済学』 山口真一著

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炎上とクチコミの経済学

『炎上とクチコミの経済学』

著者
山口真一 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784023317062
発売日
2018/06/20
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『炎上とクチコミの経済学』 山口真一著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

知るべき仮想空間の現実

 私事で恐縮なのだが、先日、初めてツイッターで炎上した。他愛ない事柄を書き込んだのだが、猛烈な勢いで拡散され、多くの誹謗(ひぼう)を受けた。最初は暇人たちがお祭り騒ぎで絡んできたと思っていたのだが、様子を見ていると、そうでもない。お祭り騒ぎというよりは、一方的な「オレの正義」による怒りをぶつけてくる人が多いのだ。

 著者の大規模調査によると、ネットで炎上に加担する人の多くが、このように「オレの正義」をぶつけるタイプなのだという。本人はふざけているのではなく、世直しをしている感覚だというのだ。著者はそうした人の属性を計量分析し、炎上加担者の像が、クレーマーの像と酷似していることを明らかにする。炎上加担者の割合はユーザーの0・5%にすぎないが、一人で多く書き込みをするし、束になると目立つ。

 いまやソーシャルメディアは重要な広報ツールだ。しかしそこにはクレーマー気質の人々が潜んでいて、彼らを刺激すると炎上騒動が起こる。ときにそれは企業の株価を急落させ、著名人を活動停止に追い込む。だがそれは、わずかな割合の人が騒いでいるだけなのだ。著者は、発信者が炎上に萎縮(いしゅく)しないこと、テレビや新聞が炎上の拡大に加担しないことの重要性を説く。

 本書はネット上のさまざまな書き込みについても詳しい。商品のレビューの多くは、それを長く使った人ではなく、購入直後の人が書いているのだという。また、極端な意見をもつ者ほどレビューを書き、ネガティブな意見ほど盛んに書く傾向があるのだという。特定の商品や人物を貶(おとし)めるための捏造(ねつぞう)記事も多い。

 クレーマーが跋扈(ばっこ)する交流サービス、偏った商品レビュー、悪意による捏造記事。これらを知らずにネットを見るのはひどく危険なことだ。仮想空間は、実世界を歪(ゆが)めて映す鏡であるばかりか、実世界に干渉して歪めもするのだから。

 ◇やまぐち・しんいち=1986年生まれ。専門は計量経済学。共著に『ネット炎上の研究』など。

 朝日新聞出版 1500円

読売新聞
2018年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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