フィクションよりも先に現実。「モンテッソーリ教育」が教えてくれること

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自分で考えて動ける子になるモンテッソーリの育て方

『自分で考えて動ける子になるモンテッソーリの育て方』

著者
上谷 君枝 [著]/石田 登喜恵 [著]
出版社
実務教育出版
ジャンル
社会科学/教育
ISBN
9784788914780
発売日
2018/06/20
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

フィクションよりも先に現実。「モンテッソーリ教育」が教えてくれること

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

きょうご紹介したいのは、『自分で考えて動ける子になるモンテッソーリの育て方』(上谷 君枝、石田登喜恵著、実務教育出版)。「モンテッソーリ 久我山こどもの家」園長と、その娘であり、自身もモンテッソーリ教育を受けてきたという同園教師による共著です。

イタリア初の女性医師であるマリア・モンテッソーリが考案した「モンテッソーリ教育」に関する書籍は、以前にも取り上げたことがあります。「子どもは本来、自分で成長していこうとする生命力を持っており、適切な時期に適切な環境が与えられれば、自分の力で成長することができる」という考えのもと、脳科学や教育学に基づいたプログラムを用意した教育法。

では、モンテッソーリ教育を受けた子どもは、どんなふうに育つのでしょうか? この点を説明するにあたって著者は、『モンテッソーリ教育を受けた子どもたち』(相良敦子著、河出書房新社)を引き合いに出しています。ここで、この教育を受けた子どもたちに共通する特徴が紹介されているというのです。

・順序立ててものを考えることができる

・何をするにも、計画を立て、順序を踏んで、着実に実行する

・段取りがよい

・先を見通すことができる

・一から出発する

・省略しない

・状況の読み取りが早く、臨機応変に対処することができる

・わずかな差異に気づき、道徳性が高い

・1人でたじろがない。責任ある行動がとれる

・礼儀正しい

(「はじめに」より)

端的にいえば、モンテッソーリの教えに触れていると、自分でできる力がどんどん培われていくということ。そして、0~6歳の子どもが、自分で考えて動けるようになるためのヒントを紹介しているのが本書です。

きょうはCHAPTER 2「こどもがスクスク育つ親子の行動習慣」のなかから、覚えておきたいいくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

できないことだけお手伝いする

子どもが困っていたりすると親はつい、いろいろやってあげたくなってしまうものです。でも、ぐっとこらえ、できないところだけ手を貸してあげるようにすることが大切だと著者は言います。

こどもたちはおともだちを助けたい、いろいろなことを教えてあげたいと思っているものです。でも、私たちは「Aちゃんができないところだけはお手伝いしてあげてね」と伝えます。必要なところだけをお手伝いしたほうがいいからです。 これが本当の助けとなります(58ページより)

「できるところまではやってみて。できないところだけお手伝いするね」と伝えると、子どもはできるところまで一生懸命チャレンジしようとします。そして、できないところで「手伝って」と言ってくるというわけです。

このように、大人が先回りせず、子どもに委ねて選択してもらうことは、人間の尊厳を尊重していることにもなるといいます。(58ページより)

子どもの前で卑下しない

大人同士で話をするとき、つい「うちの子はまだまだだから」と卑下してしまうことがあります。しかし親としては謙遜のつもりだったとしても、この行動は危険信号。なぜなら子どもは、言葉のシャワーを浴びて吸収しているから。

たとえば親が「うちの子なんかまだまだできない」と話すのを耳にしたら、子ども自身は「そうか、自分はまだまだなんだ」と思ってしまうというわけです。

わが子がいる前で自分のこどもを卑下することは、大人の世界では成り立っても、こどもの世界では成り立ちません。しかも、こどもは一度言われたことをよく覚えていますから、とても傷つきます。(60ページより)

そればかりか、子どもはよく見ているので、「おかあさんは、大人と僕(私)に話すことが違う」ということも理解するもの。つまり、それは子どもに対して「表裏のある二面性を持つのはOKだよ」と教えているようなものだということ。子どもにとって、よくない例を見せていることになってしまうわけです。

親が嘘をついている姿を見せたら、子どもが「あ、うそはついてもいいんだな」と思ってしまっても無理はありません。子どもは、大人が思っている以上にさまざまなことを見て、吸収しているのです。(60ページより)

歩くことで子どもの興味を発見する

子どもの成長にとって、歩くことはとても重要だと著者は強調しています。一緒に歩いて、子どもの興味を発見するのが大切だということ。

大人は、目的地にいちばん早く着く道を通りたいと考えがち。しかし、早く着くことよりも、楽しい道を通って行きたいと思うのが子どもです。普段から、「あ、ここに花が咲いている」「あそこに虫がいる」「葉っぱがある」「木がある」「水たまりがある」というように、いろんなことを発見しながら歩いているわけです。

親が子どものペースに合わせて歩くと、我が子が「いま、なにに興味を持っているか」「どんなことが好きなのか」ということが見えてくるようになるでしょう。いわば一緒に歩いて出かけることは、親子がわかり合う時間になるということ。それだけでなく、登園するときには「白線の中を歩くんだよ」と、公共機関のルールを教えることも可能。

一緒に歩くときに心がけたいのは、こどもを急かさないこと。「早く歩きなさい」とうながすのは、こどもの学びの機会を奪ってしまうことにもなります。ある程度、時間に余裕のある時に、ゆったりした気持ちで歩くことを楽しみましょう。(63ページより)

自然の風や小鳥のさえずり、季節の移り変わりを歩きながら感じ、さまざまな色を目にしたり、さまざまな音を耳にしたりすることで、芸術性も養われていくことでしょう。そこで保育園や幼稚園の行き帰りだけでなく、ときにはハイキングへ行ったり、小さな山を登ったりして土を踏ませるなど、自然のなかで原体験(自然物を素材にした五感を使った体験)を積ませてあげたいものです。(62ページより)

フィクションよりも先に現実に触れさせる

モンテッソーリ教育には、「すべてにおいて本物を先に与えなさい」という考えがあるそうです。子どもが小さい時期に原体験を積ませ、本物を与えることは、言語能力や感覚能力を育てるためにとても大切。まず現実の世界を知ってからフィクションを取り入れるようにしなければ、子どもは混乱してしまうわけです。

映画やテレビなどでは、実際の街並にフィクションが入っていることがよくあります。たとえば映画などでは、実際に私たちが住んでいる街にヒーローが登場したりします。本物の世界をよく知らないこどもにとっては、それが現実なのかフィクションなのか区別がつきません。 ですから、「現実=自分たちの住んでいる世界」を理解することが先のほうがよいのです。(65ページより)

著者はお母さん方から、「子どもにはテレビをどのくらい見せていいんですか?」という質問をよく受けるそうです。そんなときは、「まったく見ないというのも難しいと思うので、3分~1時間など時間を区切って見せてはいかがですか?」と答えているのだとか。

逆に、1日中つけっぱなしになっているテレビから、常に映像が流れているような状況なら要注意。テレビをつけっぱなしにするのは、ずっと見ているのとほぼ同じことになってしまうというのです。

現代の子どもたちは昔と違い、テレビやゲーム、パソコンなどの電子機器と共存していかなければなりません。だからこそ、少なくとも食事中はテレビをつけないようにしたいものだと著者は記しています。(65ページより)

子どもといるときは、スマホはなるべくお休みしよう

子どもと一緒にいるときに気をつけたいことのひとつが、スマートフォンの扱い。最近では電車でもレストランでも、スマホに夢中になっている大人をよく見かけます。そして、子どもがお母さんに話しかけても、お母さんには聞こえていないということも。しかし、それはいい影響を与えないということです。

では、どうしてスマホがこどもの心のリスクになるのでしょうか。 母乳をあげているとき、こどもは一生懸命おかあさんのほうを見ている一方で、おかあさんはスマホやテレビなどに気をとられていることがあります。 たとえば、あなたが夫に一生懸命話を聴いてほしいとき、相手がスマホやテレビを見ていたらどう感じるでしょう? これと同じ思いを、こどもにさせることになってしまいます。(74ページより)

特に0~2歳のときは、「自分のことをきちんと見てもらいたい」という発達段階にあるもの。自分の思っていることをきちんと言葉にできないこの時期にこそ、子どもの気持ちを言葉にして話しかけてほしいと著者は言います。

人間にとって、“人の話を聞くこと”は、コミュニケーションの基礎。少なくとも食事のときには、スマホの音が鳴らないようにして、手元から話してみてはいかがでしょうか。(73ページより)

モンテッソーリ教育の第一人者としての立場から、この教育法をわかりやすく解説した良書。流行のたぐいに左右されない普遍的な内容であるだけに、子どもの教育に直面している方にはきっと役立つ1冊だと言えます。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年7月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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