夏の読書にぴったりな“背筋が凍る”悪女もの

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

本性

『本性』

著者
伊岡 瞬 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041023983
発売日
2018/06/29
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

暑い夏でも背筋が凍る 超辛口のクライムサスペンス

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

「4人の関係者、3つの遺体、2人の刑事、そして1人の女。」――不穏なカウントダウンのような帯の惹句にまずどっきり。「私はこの事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、犯人なのです」という、セバスチアン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』の有名なコピーが思い出されるというか、いかにもフレンチノワールっぽい惹句ではあるまいか。

 北欧やドイツのミステリーに押されいまいち元気がなかった日本のフランスミステリー人気に一躍活気をもたらしたといえば、ピエール・ルメートル『その女アレックス』だが、本書はそれをも髣髴させるクライムサスペンスである。

 物語は全八章からなる連作スタイルで、まずは今年四〇歳を迎える独身中学教師の婚活話から始まる。母親と二人暮らしの資産家のお坊ちゃまである彼、梅田尚之はお見合いパーティーでサトウミサキという肉感的な女と知り合い交際を始める。やがてミサキは彼の母親とも知り合い、ふたりを翻弄し始めるが……。

 何だ、ありがちな結婚詐欺ものかというなかれ。続く第二章では前章に出てきた意外な人物が主役となり、サトウミサキはまったく別な顔でこの主役と絡むことに。前半はかようにサトウミサキが様々な老若男女と深く関わるありさまが描かれるが、彼女の真意がどこにあるのかは不明。そのつながりが明かされる後半は、やはり前半に出てきたふたりの刑事の捜査が軸となり、ようやく話の全貌が見えてくるのである。

 著者は章ごとにミステリー趣向を凝らすことでも(第三章の介護話に驚愕!)先を読ませない。話の全貌が見えてきてもなかなか先は読めず、最後までサスペンスをとぎらせない。前作『代償』でノワールな犯罪小説に舵を切ってみせた著者だが、本書ではコーネル・ウールリッチのサスペンスをさらに辛口にした演出で一気に読ませる。

 背筋をぞっとさせる悪女ものの登場だ。

新潮社 週刊新潮
2018年7月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加