名曲にドラマあり 昭和歌謡19曲の秘話

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詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎

『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』

著者
合田道人 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396115371
発売日
2018/05/01
価格
946円(税込)

名曲にドラマあり 昭和歌謡19曲の秘話

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 昔から「歌は3分間のドラマ」といわれる。一曲の中に小説や映画に匹敵する物語が描かれているからだ。合田道人『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』を読むと、歌の成り立ちや背後にもまたもうひとつの「ドラマ=物語」が存在していることがわかる。

 本書には並木路子『リンゴの唄』(昭和20年)から、石川さゆり『天城越え』(61年)まで19曲の昭和歌謡が並ぶ。その中で物語として最も興味深いのが、ちあきなおみ『喝采』(47年)だ。彼女がまだキャバレー回りをしていた時代、“お兄ちゃん”と呼んで慕っていた青年の訃報を受け取ったことがあった。発売当時、レコード会社はこの曲の私小説的な売り方を目論んでおり、ちあきはそれに強く抵抗したというのだ。

 そんな『喝采』から約20年後、ちあきは夫で俳優の郷えい治(ごうえいじ)を失う。衝撃的な2度目の「黒いふちどり」であり、彼女はそのまま歌手活動を止めてしまった。曲も歌い手も、いまや歌謡界の伝説となっている。

 他にも『帰って来たヨッパライ』(42年)のヒット、『イムジン河』発売自粛、そして『悲しくてやりきれない』と続くザ・フォーク・クルセダーズの怒濤の1年。山口百恵『美・サイレント』(54年)での伏字の内幕など、人に教えたくなるエピソードばかりだ。

 かつて岩崎良美と同時期にデビューした歌手であり、その後は豊富な音楽知識を生かしたプロデューサーとして活躍する著者ならではの一冊である。

新潮社 週刊新潮
2018年7月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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