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科学する五冊
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
わたしの選んだ「新潮文庫」5冊
科学ノンフィクションに“物語”を感じる人は多いはずだ。科学は歴然とそこにあり、人間の都合など慮ってはくれない。だからこそ、それをめぐる人々の発見や失意や妄執や成功が、切実な形で立ち上がってくる。人類が確かに知を継承していくなか、この世のなりたちが解き明かされていくさまは、一大叙事詩のようでもある。
さらにいうならば、科学とは共有されうるものだ。だから科学ノンフィクションとは私たちに残された、そして今後もそうである“大きな物語”にほかならない。
なかでも好きなのは、「どうせ読者にはわからぬだろう」といったごまかしを避け、それでいてちゃんと読むことができ、シンプルな知的興奮があるものだ。そうすると、第一に推したいのは『素数の音楽』(マーカス・デュ・ソートイ著、冨永星訳)だろうか。テーマは、いまだ超難問として数学者たちを阻むリーマン予想。抑えられた筆致からは、ポエジーさえ匂い立ってくる。
ほかには『暗号解読』(サイモン・シン著、青木薫訳)、『ビューティフル・マインド』(シルヴィア・ナサー著、塩川優訳)、『100年の難問はなぜ解けたのか』(春日真人)などを挙げておきたい。最後に、番外編として『四色問題』(ロビン・ウィルソン著、茂木健一郎訳)を。有名な問題なのだけど、ごまかしがなさすぎて、幾度となく理解しようとする心を折られる。我こそはというかたは、ぜひチャレンジしてみてもらいたい。
●『素数の音楽』マーカス・デュ・ソートイ[著]
●『暗号解読 上巻』サイモン・シン[著]
●『ビューティフル・マインド』シルヴィア・ナサー[著]
●『100年の難問はなぜ解けたのか : 天才数学者の光と影』春日真人[著]
●『四色問題』ロビン・ウィルソン[著]