第一級サスペンスにして優れた純愛小説、衝撃のラストに感銘
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
いまや、わが国の私立探偵小説の第一人者となった藤田宜永が、満を持して放つ第一級のサスペンス小説である。
物語は、都内の女子大に通う岡野圭子が、大型台風が東京を襲った夜、とあるマンションから顔見知りの男が飛び出してくるのを目撃するところからはじまる。
これだけなら何でもないのだが、圭子は、六本木のクラブでホステスとして働きながら、出版社の編集者を目指す大学四年生。いまは奨学金があるからいいものの、卒業したら返済がはじまるのに、未だ就職の内定が一つもとれていない。そして、くだんのマンションから飛び出してきたのは、店の上客、国枝悟郎であった。ところが、その夜、このマンションでは殺人事件が起こっていたというのだからおだやかではない。
もしや国枝が―。なかなか就職が決まらず、灰色の日々を送っていた圭子は、まんまと自分の正体を隠したまま、意を決して国枝を恐喝。二千万円をせしめることに成功する。
ところが、マンションで起こった殺人は別の犯人の逮捕で解決を見る。
では、何故、国枝は金を払ったのか。
ここまでがストーリーの三分の一で、何しろこの一巻は、優れたサスペンス小説であるからして、様々な人間の思惑が二転三転。かなり手の込んだ趣向が張りめぐらされているので、もう紹介ができない、というのが正直なところなのだ。
ただ一点だけ、その驚愕の展開を記しておけば、この一巻、中途から優れたサスペンス小説であると同時に、優れた純愛小説としても成立していく。さすがは、藤田宜永という他はないが、その果てに待ち受けるラストは衝撃的だ。
だが、よくよく考えてみると、このエピローグを読む限りでは、藤田さん、あなたは女性に残酷になれないフェミニストなんですね。