[本の森 仕事・人生]『未来のミライ』細田守/『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子

レビュー

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未来のミライ

『未来のミライ』

著者
細田 守 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041068908
発売日
2018/06/15
価格
605円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ディス・イズ・ザ・デイ

『ディス・イズ・ザ・デイ』

著者
津村記久子 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022515483
発売日
2018/06/07
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 仕事・人生]『未来のミライ』細田守/『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 代わり映えのしない毎日は、実は、ほんの少しずつ変わっている。感じたければ、外に目を向けてみればいい。一晩でがらっと生長する道ばたの草花。日替わりランチのメニュー内容を報せるレストランの黒板。あるいは……子供という存在。

 細田守監督が今夏公開のアニメ映画を自らノベライズした『未来のミライ』(角川文庫)は、四歳の男の子・くんちゃんの前に、未来からやって来た中学生の妹・ミライちゃんが現れる物語。終盤、時空を越えた冒険も登場するのだが、全編にわたって丹念な筆致で描かれていくのは、一軒の家で巻き起こる日々の営みだ。〈乳児の間にも無数のステップが存在し、幼児の間にもまた無数の成長の段階がある。子供を「子供」と一口にくくれないほど、目まぐるしく変化してゆく〉。親ですら追い切れない、気付けない、忘れてしまうような子供達の変化を、時空を越えた人類史の目撃者、といった感触を放つ語り手が記録する。

 語り手は、父母にもフォーカスを当てる。子供達のような「目まぐるしさ」はないけれど、大人達もまた、子供達と向き合い彼らの幸せを願う日々の中で、自身を変化させているのだ。物語とは、時間の厚みを圧縮し、ありふれた日々の最中ではなかなか気付けない変化を、分かりやすく提示する装置。その機能を十二分に発揮させた本作は、「子供映画」や「児童文学」の枠を大きく越えた普遍性が宿る。

 津村記久子『ディス・イズ・ザ・デイ』(朝日新聞出版)は、架空のサッカー二部リーグ最終節を観覧する、日本各地のサポーターを描く一一編+αの短編集だ。各編の主人公=視点人物は一人、ないし二人。二人の場合は、一人目の主人公が応援するチームの、対戦相手を応援している人物がカップリングされる。粋な演出だ。登場人物たちは長年の熱狂的なサポーターばかりではなく、「にわか」も多く含まれている。サッカーへの興味をきっかけに、代わり映えのしない毎日が、ゆらぐ。

 最終節の勝敗によって、一部へと昇格、もしくは三部降格を決めるプレーオフ出場が決まる。そうした(スポーツ小説的な)展開も物語に盛り込まれてはいるが、あくまでスパイス。メインとなるのは、サッカーチームを応援する、という一点で奇跡的に繋がった出会いの記述であり、サッカーチームの応援と共にある人生、その喜びの記述だ。喜びは、不思議でもある。だって応援したからって、何になる? 無益かもしれない。無駄かもしれない。だが、誰かの勝利を熱烈に願う際の、祈りの純度が、彼らの人生に充実を与え、彼ら自身をかすかに、時に決定的に変化させる。その瞬間が、一一編全てに書き込まれている。

 誰かの幸せを、本気で願う時。その人もまた、幸せな時間の中にいるのだ。

新潮社 小説新潮
2018年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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