「ノモレ=仲間」を探して

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ノモレ

『ノモレ』

著者
国分 拓 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103519614
発売日
2018/06/22
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「ノモレ=仲間」を探して

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 NHKスペシャル「大アマゾン 最後のイゾラド」から派生したノンフィクションである。時系列に沿ってつくられたテレビ・ドキュメンタリーに対して、本ではときに時間をさかのぼり、先住民の心に寄り添うようにして森に暮らす彼らの声を響かせる。

 ペルーのアマゾン流域で、文明に接触したことのない先住民であるイゾラドの姿がたびたび目撃される。現代人にとってはそれだけでも大きな驚きだが、本書は、彼らと接触するための前線基地で、イゾラドとの交渉役に抜擢される、ロメウというイネ族の男性と、イネ族に伝わる物語に焦点を当て、掘り下げる。

 先住民である彼らの曾祖父たちは、入植者により自由を奪われゴム農園で働かされていたが、ある日、パトロンを撲殺し、奇跡的に追手からも逃れて生還することができた。全滅を避けるために二手に分かれ、「森には未だ仲間が残っている」というのがその言い伝えである。

 生死のわからない「ノモレ=仲間」を探してほしいという曾祖父たちの願いを果たすため、二十世紀も終わりになって、ロメウらの父たちはアマゾン流域の旅を続けた。旅の終わりに、新たな定住場所としてたどりついたのが、かつてゴム農園があった豊かな土地だった。

 イゾラドは、「マシュコ・ピーロ(凶暴で野蛮な人間)」と呼ばれることもある。実際に、森で出会った先住民の男性が殺されたり、けがを負ったりもしている。それでも、父祖の物語を信じているロメウにとって、彼らはイネの仲間で、「ノモレ」の子孫だと信じられるのである。実際、イゾラドの話す言葉は、スペイン語がまざる前の古いイネの言葉に似ており、だいたいの意味は通じるらしい。

 ロメウという男性が実に魅力的だ。テレビにもちらっと登場、ふっくらと優しげな人という印象だが、ここまで冷静沈着、かつスケールの大きい人物だったとは。

 前線基地に呼ばれる前に、ロメウの集落にもイゾラドの集団は現れていた。バナナを与え、言葉も交わしたにもかかわらず、選挙のため大半が留守にした間に、集落はイゾラドに襲われ破壊しつくされ、村人たちは難民としての暮らしを余儀なくされる。そんな経験があっても、イゾラドに対するロメウの姿勢は揺るがず、救いを求められれば迷うことなく手を差し伸べる。

 多くの謎を残したまま、最後のイゾラドは姿を消す。彼らは本当に「ノモレ」なのか、生き延びて、再びロメウたちの前に現れるのか。無理に結論めいたものを導き出そうとはせず、奇跡の瞬間に立ち会うことのできた書き手の姿も完全に消して、繊細かつ大胆に、圧倒的な他者と出会った時の人間の姿を描き出す。

新潮社 新潮45
2018年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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