『ジョン・ル・カレ伝 上・下』 アダム・シズマン著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ジョン・ル・カレ伝 上

『ジョン・ル・カレ伝 上』

著者
アダム・シズマン [著]/加賀山 卓朗 [訳]/鈴木 和博 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784152097668
発売日
2018/05/25
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ジョン・ル・カレ伝 下

『ジョン・ル・カレ伝 下』

著者
アダム・シズマン [著]/加賀山 卓朗 [訳]/鈴木 和博 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784152097675
発売日
2018/05/25
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ジョン・ル・カレ伝 上・下』 アダム・シズマン著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

波乱万丈な作家の人生

 一九三一年生まれ現在八六歳のジョン・ル・カレ、新作が出るたびにいまも話題となって次々と映画化もされる、そんな押しも押されもせぬ英スパイ小説の老大家の評伝である。東西冷戦期の諜報(ちょうほう)戦を描いて圧巻の英国推理作家協会賞とアメリカ探偵作家クラブ賞と両賞受賞の『寒い国から帰ってきたスパイ』に三部作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』『スマイリーと仲間たち』、パレスチナ紛争に材を採った『リトル・ドラマー・ガール』や、冷戦後の『ナイロビの蜂』『誰よりも狙われた男』などの映画化諸作品と、欧米はもとより世界各地を舞台に、諜報戦と歴史の暗部に関わり巻き込まれた人々のリアルでスリリングな物語を通じて我らが時代を見つめてきた作家である。

 かつてはインタビュー嫌いで知られていたル・カレだが、伝記作家の著者にさまざまな記録や資料を提供、取材に協力している。詐欺師同然の男の息子として生まれてオックスフォード大学を卒業、英諜報機関のスパイとなり、やがて作家へ。自ら紛争地帯に赴くなど旺盛な取材の末に書き上げた二五作はその多くがベストセラーリストをにぎわせて、映画人との交友から不倫や家庭の危機も赤裸々に、作品に勝るとも劣らない波瀾(はらん)万丈さである。

 昨年、回想録『地下道の鳩』と最新作『スパイたちの遺産』も邦訳された。前者は自らによる回想録だが、人生におけるトピックをシブいユーモアもまじえて綴(つづ)ったエッセー集の趣があり、後者はといえば冷戦下の作品の主役とした登場人物たちのいまを描いた傑作、自らの「冷戦」に落とし前を付けるかのような気迫に溢(あふ)れていた。どうやら本書も含めて、ル・カレは作家人生の大団円を迎えているのかとまで思わせられるが、その作家魂にあらためて全作を読み返したくなって困る。未読のあなたがうらやましい。加賀山卓朗・鈴木和博訳。

 ◇Adam Sisman=伝記作家。『サミュエル・ジョンソン伝』の作者ボズウェルの伝記で全米批評家協会賞受賞。

 早川書房 各3000円

読売新聞
2018年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加