『日本人のこころの言葉 鈴木大拙』 竹村牧男著

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日本人のこころの言葉 鈴木大拙

『日本人のこころの言葉 鈴木大拙』

著者
竹村牧男 [著]
出版社
創元社
ISBN
9784422800721
発売日
2018/06/05
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日本人のこころの言葉 鈴木大拙』 竹村牧男著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

仏教の奥義明らかに

 鈴木大拙(だいせつ)は渡米後4年ほどたった明治34年1月、心友西田幾多郎に手紙を書いた。そこには「予は近頃『衆生無辺誓願度(しゅじょうむへんせいがんど)』の旨を少しく味わい得るように思う」とあった。その手紙を受け取った同年2月14日、西田は日記に記した。

 「大拙居士より手紙来る 衆生誓願度を以(もっ)て安心(あんじん)となすとの語胸裡(きょうり)之(の)高潔偉大可羨(うらやむべし)可羨 余の如(ごと)きは日々に私欲之為(た)め此(こ)の心身を労す 慚愧(ざんき)々々 余は……些々(ささ)の肉欲の為め道を忘ること日々幾回なるを知らす」(『西田幾多郎全集』第17巻、岩波書店)

 衆生無辺誓願度とはすべての人を救済するという誓いのことである。世界的仏教家鈴木大拙の思想の神髄はこの言葉に集約されている。本書を著者は「鈴木大拙への入門のような本」と謙遜しているが、「無心ということ」「日本的霊性」「大悲(だいひ)に生きる」「東洋と西洋」などに分けてわかりやすく解説、宗教とは何か、仏教とは何かを深く考えさせられる書である。

 西洋の自由は“何々からの自由”だが、東洋の自由とは「自らに在り、自らに由(よ)り、自らで考え、自らで行為し、自らで作る」という“何々への自由”である。宗教には母性的な大悲の心がなければならず、それが宗教の土台だと大拙は考えた。

 阿弥陀仏の国土では自他相互に尊重しあい、すべての人が他者のためにこそはたらく世界のはずなのだ。しかもその世界が、阿弥陀仏との出会いを通してこの世に実現してくると見たところに一般の浄土教家では指摘し得ない仏教の奥義を大拙は明らかにしている。

 著者の解説をアトランダムに取り上げたが、大拙の人となりについて西田は明快に書いている。「大拙君は、高い山が雲の上へ顔を出しているような人である。そしてそこから世間を眺めている。……その考える所が、あまりに冷静と思われることがあっても、その底には、深い人間愛の涙を湛(たた)えている」

 ◇たけむら・まきお=1948年、東京生まれ。東洋大学長。著書に『入門 哲学としての仏教』など。

 創元社 1200円

読売新聞
2018年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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