『ルポ 児童相談所』 大久保真紀著

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ルポ児童相談所

『ルポ児童相談所』

著者
大久保 真紀 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784022730930
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ルポ 児童相談所』 大久保真紀著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

虐待死を減らすために

 「もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりかもっともっと あしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください」

 ひらがなで両親に哀願する手紙を残してこの世を去った小さな女の子。言葉が決して追いつくことができない拷問とくるしみだった。

 そのとき児童虐待の問題に目が向けられたのは、きっと多くの人があの手紙に子どもの尊厳を感じ取ったからだろう。人間には侵してはならない尊厳がある。誰も奴隷状態におかれてはならず、子どもについてのほぼ全権を握る親のもとであったとしても、許されることではない。日本中で、他人事にしてはならない、という強い気持ちが生じた。

 虐待で亡くなる子供はゼロ歳児が最も多く、加害者の半数超は実母だという。虐待する親の側はさまざまな問題を抱えていることが多い。

 本書は、ベテランの新聞記者である著者が児童相談所のワーカーに密着して取材した調査の成果である。繰り返される子どもの死という耐え難い問題について提起し、予防について考えるものだ。現場が集積した多くの知見は、これまで、行政の中でタテにもヨコにも十分共有されることがなかった。その結果、子どもの虐待死を減らそうとする効果的な取り組みに結実してこなかった。現在、日本では里親というかたちの受け入れ体制を強化していくことが目指されているが、やはり施設側に抵抗も大きいのだという。

 著者が繰り返し拾っているのが、「子どもが救われなければ意味がない」という現場の声だ。子どもを救うにはどうしたらよいか。政府はそれに取り組む責務がある。

 「金曜日の献立が好きな鶏のから揚げだから、それまでに帰ってくるつもりだった」――。窮屈な一時保護施設から逃げ出した女子高生の言葉だ。生き延びた子どもたちが求める慰めを、私たち社会は提供できるだろうか。

 ◇おおくぼ・まき=朝日新聞編集委員。1987年入社。著書に『買われる子どもたち』『児童養護施設の子どもたち』など。

 朝日新書 820円

読売新聞
2018年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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