『解死人 次郎左』 新井政美著

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解死人 次郎左

『解死人 次郎左』

著者
新井 政美 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309026923
発売日
2018/06/19
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『解死人 次郎左』 新井政美著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 舞台は、守護大名小笠原長時が支配する安曇野。武田軍との塩尻峠の戦いで小笠原氏は敗走し、落ち武者狩りが。そんな村の周縁で、少年三十郎は父親次郎左と暮らす。村の有力者が訪ねてくると、父はどこかに消えて、やがてふらっと帰ってくる。

 「解死人(げしにん)」稼業という設定がユニークだ。「犯人の引き渡しを要求されて、身代わりに立つ者」と広辞苑にあるが、次郎左は賦役も引き受ける。

 武田家重臣の家に生まれながら、戦を好まぬ植原次郎左衛門は浪人となり、亡き妻の古里で「解死人」として飼われている。不作を装い年貢を負けさせ、しかも武田・小笠原に二股かけるという、百姓の知恵。やがて安曇野は武田の支配下にと思いきや、武田軍は敗北を喫する(「戸石(砥石)崩れ」)。村は「負け馬に乗った」のか? 「野伏せり(野武士)」が村を襲う。

 農民に寄食する元武士とその息子の視点から、戦国の世の生き方を問う佳作。オスマン帝国史の第一人者による二作目の時代小説だが、もはや玄人はだしの余技ではない。今後は専業作家としてオスマン帝国物も期待したい。(河出書房新社、1600円)

読売新聞
2018年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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