『SILENT WORLD』 山田悠人著

レビュー

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『SILENT WORLD』 山田悠人著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 廃墟(はいきょ)を題材にした写真集は珍しくないが、本書の特徴は「美しい」。うち捨てられた建物のなかに差し込む日差しが作り出す陰影や、様々なデザインの窓枠とそこにはめ込まれたガラスの明るさ、壁や廊下に残された色とりどりのポップな落書き、干からびたプールの底のライン。最初からそう創りあげられた現代アートのように鑑賞することもできてしまう。左の写真は軍事施設の一室だが、天窓と床のモザイクタイルの(描きかけの)絵の組み合わせが謎めいてシュールだ。

 ただ一つだけ例外がある。著者の活動拠点がベルリンなので、本書に取り上げられている廃墟の多くはドイツ国内とその周辺のもの。だから歴史の暗部も登場する。ザクセンハウゼン強制収容所から囚人たちが徒歩で通わされていたというパン工場の、床に並べられた数組の革靴が恐ろしい。(パイインターナショナル、2500円)

読売新聞
2018年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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