赤神諒・インタビュー 悪鬼と呼ばれた柴田治右衛門の信仰と改心を描いた理由

インタビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

大友の聖将

『大友の聖将』

著者
赤神諒 [著]
出版社
角川春樹事務所
ISBN
9784758413268
発売日
2018/07/12
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

赤神諒・インタビュー 悪鬼と呼ばれた柴田治右衛門の信仰と改心を描いた理由

[文] 青木千恵(フリーライター・書評家)

赤神諒
赤神諒

戦国を舞台に大友氏の興亡を描く『大友二階崩れ』で第9回日経小説大賞を受賞した赤神諒が、二作目となる『大友の聖将』を上梓した。大友氏に仕え、かつて悪鬼とさえ呼ばれた柴田治右衛門の信仰と改心とを描く王道の歴史エンターテインメント。インタビューと解説から、その魅力に迫る――。

 ***

――まずは、天徳寺リイノ(柴田礼能)を主人公に、丹生島城の戦いを題材にした経緯を教えてください。

赤神諒(以下、赤神) 戦国大名の中で、大友氏はあまり小説で書かれていないんですよね。大友宗麟がもっとも有名ですが、私は宗麟を主人公にせず、彼を取り巻く人物を描くスタンスで一貫しています。大友の歴史をひもとくと、九州六ヵ国を制しながら衰退する、興亡自体が面白いんです。いろいろな人物が現われて乱世を生き、死んでいく、人間ドラマが実に豊かです。今回の柴田礼能は、丹生島城の戦いで息子と共に奮戦した人物という史実くらいしか分かっていません。分からないだけに、面白く描けそうでした。宣教師が「豊後のヘラクレス」と呼んで称えた逸話にも惹かれ、大友家を彩る人物の一人として以前から描きたいと思っていました。

――なぜ、大友氏に関心を持ったのですか?

赤神 新人でも手を出せるような題材はないか、あまり知られていない武将や事件を北から探していきました。それで最初に書いたのが岩屋城玉砕戦で知られる高橋紹運で、松本清張賞の最終選考に残りました(二〇一四年)。その後さらに大友を調べたら面白くて、私は「前置き」を考えるのが好きなものですから(笑)、紹運の前置きを深めたのが日経小説大賞を受賞したデビュー作でした。あれも書きたい、これも書きたいとストックが増えて、一時期は大友ばかり書いている状態でした。

今回のテーマは「人は変われるか」。

――今回は二部構成で、およそ二十年間が描かれています。天徳寺リイノと丹生島城の戦いのどちらに先に関心を持たれましたか。

赤神 基本的には人物が先だと思うんですね。晩節を汚すような生き方をした人物は、主人公にする気が起こらない。私は、負ける側を書くのが結構好きなんです。今回のテーマは「人は変われるか」でした。聖者を描くのに、単なる聖者では面白くない。「極悪人が聖者に変わる」軌跡を書いてみたいと思いました。極悪人と聖者を対比する意味で、二部構成にしようと。

――戦国時代のキリシタン自体が、ドラマチックな題材です。リイノは信仰を持ちながら、大友氏のために人を殺めます。この矛盾をどのようにご覧になりましたか?

赤神 宗麟はカトリックに改宗して十年ほどで没しますので、彼は人生の多くを仏教徒として過ごしました。今回は、キリシタン大名としての宗麟も描かなくてはならない物語でした。神父の資格を持つ同僚の歴史学者や、カトリックの友人に話を聞き、自分なりに理解を深めて書いたつもりです。中世の十字軍、現代のテロを見ても、信仰のために暴力を行使することがある。ただ、第一部のリイノは快楽で人を殺めるような極悪人でした。そうした人物だからこそ、報いを受けないとカタルシスは得られない。そこで史実につなげていけばいいのかなと考えました。

――主人公を決め、「信仰」や「人は変われるか」などを考えつつ書いていかれた?

赤神 そうですね。私は書きたい場面があれば、先に書いてしまうんです。「ここはエピソードが欲しいな」と思ったら印だけ入れて先に進んで、あとで足したり、場面を入れ替えたり。書きたいところから書いています。効率よく書けますし。

――どんなところに惹かれて書きたくなるのでしょうか?

赤神 基本的には主人公に感情移入しますが、名脇役も出したくて、戸次鑑連とか脇の人物に思い入れることもあります。リイノが極悪人になったのは、かわいそうな境遇のゆえだと庶子の設定にしたのですが、あとで調べたら本当にそうだったり、偶然の一致もあります(笑)。史実がほとんど残されていない人物を主人公にし、面白さを追求して創作していますから、フィクションであることを巻末にあえて記しています。

――デビュー作『大友二階崩れ』は、吉弘兄弟の対比と女性との関わりが重要な要素でした。『楓』という曲を聴きながら書かれたそうですが、エモーショナルなものを作品に投影したい思いがあるのでしょうか?

赤神 それはありますね。長編を書く場合は情熱を維持し続けることが重要ですので、感情移入しやすい人物を登場させ、音楽を流し続けて書きます。『大友の聖将』で流していた曲は、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第三番』、ワーグナーの『パルジファル』の前奏曲。パルジファルは聖者の曲なんですね。ラフマニノフは、第一部の悪人パートでかけていました。この作品で『楓』に相当する曲は、坂本美雨さんの『The letter after the wound』。どの曲も千回ぐらい聴いてます。小説ごとにテーマ曲があり、曲をかければ条件反射的に世界に入っていきます。私が音楽を聴くのは習慣で、司法試験の時も研究論文を書く時も聴いていました。昔はクラシックばかりでしたが、今はもう何でも聴きます。音楽を聴かないと人生を損しているような気がして。

――小説を書き始めたのはなぜですか?

赤神 三十八の頃、そろそろ不惑になる、人生を折り返すにあたり、やり残したことはないかと思って書き始めました。昔から文章に凝るところがあって、「今日はよい書面が書けた」と依頼者や裁判所に出しても、文章で凝った部分は読んでくれてない(笑)。研究論文や専門書でも読者はせいぜい数百人で、おまけに法律は変わるので賞味期限がある。読んでくれる人がとても少ない消耗品なのだと気づいて、小説を始めました。デビューまでに時間がかかりましたが、本数を大事にして、ひたすら新しいものを書いてきました。落選しても次の作品が出来上がりつつあるので、それを出せばいいと。書きたいものがたくさんあるんです。生きている間に全部書けるか、次々書いていかないと間に合わないんですよね。

――落選した時は、がっかりでしたか?

赤神 毎回自信作なので(笑)、どうして落ちたのか分からなくて、ショックですよね。それで、小説教室に通い始めました。司法試験の受験指導をしているので分かるのですが、伸びる人は素直なんです。だから教室では何でも素直に聞くようにし、学ぶことがたくさんありました。小説を書く上で大事なことをまとめ、元気がない時は読み返し、そこから展開やエピソードの発想、刺激をもらう場合もありました。

ドストエフスキーとシェイクスピアを愛読した学生時代。

――どんな本がお好きでしたか?

赤神 祖父が英文学者で家の図書室に本がたくさんあったので、中学高校、大学ぐらいまでは、ひたすら英文学を中心に、クラシックな世界文学を読んでいました。ドストエフスキーは全集で。一番好きだったシェイクスピアを勉強したくて英文科に進みました。

――時代小説を書き始めたのは?

赤神 ホラーと官能小説以外は書きたいと思っていて、現代小説も自信作を応募したのですが戦績がよくない。歴史小説はそこそこ残るので、歴史ものでデビューする方が早いのかなと、この二、三年は歴史小説に特化していました。シェイクスピアのように面白いエンターテインメント小説を目指して。戦国に限らず、幕末やほかの時代、中国も書きたいですが、史実が多く残っている幕末は、私の得意なフィクションがなかなか展開できなくて。私の場合は、『三国志演義』の仙人が出てこないレベルのものを書いている感じです。そうすると戦国が一番書きやすく、読者にもついてきていただきやすいかなと。当面は戦国時代をと思っていますが、現代ものの在庫がありますから、隙を見て(笑)。できれば現代ものと交互に書いていきたいですね。

――デビューして、とても多忙と思いますが、本業との兼ね合いはどのように?

赤神 私は二刀流でやっていきたいと思っておりまして、先日もTOKYO FMで「人生二刀流」をテーマに出演したところです(笑)。元々二刀流の傾向があって、研究者(大学教員)と実務(弁護士)の両方をし、専門分野も環境法と行政法の二つです。法律と小説のどちらも、二刀流でいきたいと思っています。副業時代でもありますから。

――そして今、「小説を書きたい」と思う理由は? どんな個性やテーマを打ち出していかれたいですか?

赤神 ここ三年くらい、毎日ノルマを課して書いてきました。もはや生理的な行動になっていて、書かないと落ち着かないんです。ただ、やる気だけではもたないので、体調管理が大事ですね。一二〇%健康ならやる気も出るし、コストパフォーマンスのいい仕事ができる。小説を書きたい理由は、平凡ですけれど、一言で言えば「感動」です。自転車に乗れた、逆上がりができたと、子どもの頃はいろんなことに感動していたのに、大人になるにつれて感動しにくくなります。読者の予想を裏切って感動してもらったり、小説の中だけでも非日常を提供できたらいいですね。「感動」が言いすぎなら、「心地よい非日常」を感じていただきたいということでしょうか。

聞き手=青木千恵

角川春樹事務所 ランティエ
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

  • このエントリーをはてなブックマークに追加