性の進化史 いまヒトの染色体で何が起きているのか 松田洋一 著

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性の進化史

『性の進化史』

著者
松田 洋一 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784106038273
発売日
2018/05/25
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

性の進化史 いまヒトの染色体で何が起きているのか 松田洋一 著

[レビュアー] 石浦章一(同志社大特別客員教授)

◆生殖医療への依存を危惧

 「男たちの性染色体が危ない!」という本書の帯を見ると、ああまたかという感が強い。一九九二年、コペンハーゲン大のスカケベック教授(当時)の発表以来、男たちの精子の数が減ってきて子どもができなくなるのではないか、これは環境ホルモンのせいではないかという危険話が何度繰り返されただろう。環境ホルモンの存在自体が怪しいという結論になり、世界の人口が増え続けているにもかかわらず、精子が減ると人類が滅亡すると私たちを脅かすのである。中身と関係なく出版社は帯におどろおどろしい言葉を並べるのはいけない。

 本書は、帯とは全く異なる内容で、性染色体がどのように進化してきたかを真面目に語るもので安心だ。特に、男性を規定しているY染色体が縮んでいってこの先退化するとどうなるかは、将来の人類の行き先が決まるようで、非常に興味がある。著者の結論は「心配ない」だが、ここに至るまで性の決定様式が動物種によって異なる話は圧巻である。難しいから読み飛ばしてもいいですよ、と著者が言うのはちょっと言いすぎで、ここが本書のヤマ場である。だって、孵卵(ふらん)器の温度によって性が決まる爬虫(はちゅう)類が、このような進化的に不利なシステムを残している理由を知りたくありませんか。

 本書の最後には、生殖医療についての意見が述べられている。顕微授精などで生まれた次世代集団には生殖補助医療に依存しなければならないヒト社会が形成される、との危惧だ。今は生殖細胞には適用されていないゲノム編集技術など、変異を正常化できる技術を適用する時代がくるのか、将来の議論が待たれるところである。

 最後に私が気に入っている話を一つ。歴史上、英国のヴィクトリア女王からロシア、スペイン王室などに拡(ひろ)がったといわれているヘモフィリア(血友病)の遺伝について、詳しく解説してあるのは嬉(うれ)しい。ニコライ二世の話や皇女アナスタシアの運命についても、親子鑑定の話を交えながらわかりやすく説明してあり、これはよかった。

(新潮選書・1404円)

1955年、三重県生まれ。名古屋大大学院生命農学研究科教授。

◆もう1冊 

須田桃子著『合成生物学の衝撃』(文芸春秋)。人工生命体は既に誕生。

中日新聞 東京新聞
2018年8月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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