「感情回路」をうまく使いこなせば、ストレスを抱えることなく毎日を過ごせる?

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「感情回路」をうまく使いこなせば、ストレスを抱えることなく毎日を過ごせる?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

周りを気にせずにあなたの感情とうまくつきあう方法』(須藤久美子著、フォレスト出版)の著者は認定心理士、心理カウンセラー、管理栄養士。大学在学中に代謝栄養学に出会って栄養化学の研究に従事し、卒業後は東京医科大学付属病院内分泌研究室に研究助手として勤務。そののち、心理学に転向したという経緯をたどってきたのだそうです。

心の病などに苦しむ現代人を救うべく、遺伝子的気質や思考・感情を分析し、科学的根拠に基づいた楽しく簡単に実行できる画期的な回復プログラムを開発。経営者やビジネスパーソンを筆頭に、医師、弁護士、教育者、代議士、俳優などのサポートを行っているのだといいます。そんななかで感じるのは、“頭がいい”人たちに限って多くの「悩み」を抱えているということ。

短いセンテンスと検索だけで膨大な情報が得られる時代だからこそ、「こうなるはず」と決めていたことがそうでなかったとき、思考と体験に食い違いが生じ、それが強いストレスとなって感情停止を招くものだというのです。

現代人は、知性は豊かでも感性は脆弱です。 心の葛藤を避けてきているので鍛えられていません。豊かな人間関係を構築するにも、欲しいものを手に入れるにも、夢を叶えるにも、人生そのものを豊かにするにも、感性の多様性を高めることはとても大切なことです。

そもそも感情とは何か? 感性を高めるには何をすればいいか?

これまで多く語られてきた、「意識を変えれば…」という思考論ではなく、私たちに生まれつき備わっている脳機能としての感覚器(五感)にフォーカスして、より科学的で実践的なメソッドを提案したいと思います。(「はじめに」より)

とはいえ難しいことはなにひとつなく、日々の生活に小さな変化をつけるだけ。感覚器(五感)が多種・多彩・多様な刺激を受けると、そこから生み出される感情もより豊かになり、「気づく力」も高まるというのです。

第2章「五感を刺激するだけで、人から好かれる新しい感情が作られる」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

「考える」と「感じる」は別々の回路?

思考は脳の前頭前野(おでこの奥)を中心に、たくさんの神経回路を介して働き、多くの情報を処理することによって、より複雑な回路を形成するもの。すなわち、これが「思考回路」。処理する情報が多ければ、それはますます発達するわけです。俗にいう“頭がいい人”とは、この思考回路によって、より複雑で難解な問題を処理する能力が高い人のことだというわけです。

ところが、現代人があまり考えなくなったのも事実。かつては思考のもとになる情報を得ることが楽ではなかったため、文字ひとつ調べるにしても辞書を引き、言葉の意味を知り、その使い方をかんがえる必要がありました。しかし、いまは短いセンテンスと検索だけで膨大な情報を得ることが可能。しかも必要な情報だけでなく、そうでないものまでも次から次へと流れ込んできます。

そのため「知っていること」もまた膨大ですが、知っているからといって必ずしもわかっているとは限らないもの。

一方、体験を積み重ねていくことで形成されるのが「感情回路」。体験から得た情報や刺激を感覚器(五感)が受け取り、脳の奥にある扁桃体が“喜怒哀楽”という感情を生み出すわけです。受け取る情報が多種、多彩、多様であればあるほど回路は発達し、ひとつの刺激からより多彩な感情が広がっていくことになるわけです。

そして、思考回路と感情回路は影響し合う関係にあるもの。積極的な考えや発展的な考えになれば前向きな気分になりますし、やる気が起きずに否定的な気分のときにはいい気分も浮かばないということ。思考回路の発達にも、感覚器(五感)は影響すると考えられるといいます。

また、思考回路と感情回路が相関関係にあるということは、考えなくなると感じにくくなるということでもあるとか。無防備に膨大な情報を受け取っていると、多くの情報をもとに理解して納得し、勝手な結論を出すことで「やった気」になってしまうということ。それは、感情のもとになる体験が少なくなるということにもつながるでしょう。

しかし、考えない、感じないでは「気づく力」も高まるはずがありません。少なくなった体験を補う意味でも、感覚器(五感)への刺激は大切だと著者は主張します。(94ページより)

脳は死ぬまで成長する?

著者によれば、脳は年齢とともに衰えていくと「誤解」されているのだそうです。たしかに脳細胞数は誕生時がもっとも多く、その後は年齢を重ねるごとに減少していくもの。しかし脳細胞の減少と相反するように、脳内物質(アミノ酸類など)は増加し続けるのだといいます。

脳に必要な栄養は供給し続けるということなので、いまでは「脳は死ぬまで成長する」という考えた主流になっているのだとか。特に感情回路は老化速度が遅く、年齢に比例して増加する体験がカギになるため、一生成長し続けるというのです。

新しい感情回路を作るとき、大切なポイントは「いい気分」でいることです。 寝起きが悪いと朝から気分が悪い。朝、ちょっとしたことで夫婦げんかをしたら、その日は1日中いいことがなかった。朝からバタバタ慌しく家を出ると、忘れ物をしたり遅刻したりといいことなし。こんな経験はだれでもあるでしょう。そうです、「朝の気分」はとても重要なのです。 目覚まし時計よりちょっとだけ早く目が覚めて、スッキリ気分で起きられた朝は気分がいい。身体も脳も心もしっかり目覚め、大好きなお茶やコーヒーをゆっくり飲み、余裕を持って出勤すれば、今日の仕事はバッチリ! 最近では「朝活」なんて言葉もあり、朝の過ごし方が注目されています。(100ページより)

活動意欲や前向きな気分に関係する脳内ホルモンであるドーパミンは、早朝4時ごろから分泌され、4時間ほど(つまり8時ごろまで)続くのだそうです。そして、特に6時ごろが分泌のピークになるため、この時間帯に(15~20分くらい)感覚器(五感)を刺激すると、よりいっそう気分のいい朝を過ごすことができるのだといいます。

ただし、そんな心地よい朝を迎えるためには、夜の過ごし方、特に「寝る前」が重要。昼間の嫌な出来事をあれこれ思い出し、ストレス解消に深酒して、深夜までスマホでゲーム……こんなことをしていたのでは、「いい朝」を迎えられるはずがないわけです。なぜなら寝つく直前の感情は睡眠中に記憶に刷り込まれ、感情回路の基礎になってしまうから。

嫌な気分のまま寝た結果、嫌な気分で朝を迎え、そのサイクルが繰り返されることで、どんなことでも嫌な気分になるという感情回路が構築されてしまうということです。だからこそ、寝る前の黄金タイム(寝るまでの時間)が重要だという考え方。

その日1日を振り返って、うれしかったこと、感動したこと、よかったことなど、とにかく楽しかったことをイメージして思い浮かべます。たとえイヤなことがあった日でも、1つくらいはいいことがあるはずです。(102ページより)

たとえば「ランチがおいしかった」「バーゲンでお得品をゲットした」「赤信号に引っかからなかった」「電車ですぐに座れた」など、どんな些細なことでもOK。そういうなにかを探し、寝る前に嫌なことは考えない。そんなことが大切だというのです。(100ページより)

新しい感情回路をつくるには「動き」が効果的

感情回路は体験を積み重ねることによってつくられるため、じっとしていたのでは活性化されないといいます。感覚器(五感))への刺激は、「動き」を伴うとより効果的だということ。とはいっても必ずしもスポーツをしなければならないということではなく、日常生活上の動作のほうがいいともいえるのだそうです。

人の脳は、思考(考える)と行動を同時にするのが苦手。思考が高まれば(考えすぎる)行動は低下し、逆に身体を動かすと思考が低下し、その代わりに感情回路が優位になるというのです。

歩きながら、作業をしながら、おしゃべりしながらなど、「○○しながら」は新しい感情回路をつくるためにより効果的だということ。特にアイデアが浮かばなかったり、企画がまとまらないなど、頭脳労働に行き詰まったときは、別の動き(行動)をすることで感情回路が刺激されて気分が変わり(気分がよくなり)、思考回路にも新たな刺激が加わることで、思考も活性化するのだそうです。(103ページより)

著者は24歳で結婚して2児の母となったものの、次男を小児ガンによって、その後には夫を難病で亡くしたのだそうです。家族の死と向き合い、大きな喪失感のなか研鑽を重ね、独自の理論を構築したということ。本書の内容に説得力があるのは、そんな自身の体験がベースになっているからなのかもしれません。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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