『誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書』
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決してユートピアではない リアルな田舎暮らし
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
地方のビジネスホテルのロビーには、観光やグルメ情報のチラシを置いたコーナーがある。最近目につくようになったのが、地元自治体が発行する「移住案内」だ。美しい自然、四季折々の行事、暮らしやすい環境。市や町が行っている移住支援策も紹介されている。定年という節目を迎える世代に、「いいなあ、田舎暮らし」と思わせるには十分だ。
しかし、そう簡単に移住を決めていいのか。行った先は本当に“人生の楽園”なのか。地方移住歴20年以上の著者が、リアルな田舎暮らしを教えてくれるのが本書だ。すでに移住という選択をした人、迷っている人、そして興味のある人にも有効な一冊となっている。
まず、都会人が陥りやすい過ちが指摘される。頭の中で自分に都合のいい“理想の田舎”を思い描いてしまうことだ。著者はこれを「無意識の楽観主義」と呼ぶ。何とかなるさ=どうにもならない。最悪の状況、想定外を想定しておく必要がある。
よく「のんびり、ゆったりの田舎暮らし」と言われるが、実際は逆だったりするのだ。田舎は想像以上に強い共同体であり、団体主義、全体主義が徹底している。そこではのんびりとはほど遠い、「新住民」としての修業が待っている。またゆったりどころか、都会に住むより経済的負担が大きい場合がある。特に過疎地域では税金が高く、健康保険料は「地獄の出費」だ。加えて「人情の厚さ」や「人間の温かさ」も決してタダではないと知るべきだろう。
さらに移住先の地域性と特性をしっかり把握せよと著者は言う。厳冬期に訪問してみること。1時間圏内における大学病院の有無の確認。お寺の住職と駐在さんへのヒアリングも忘れずに。その上で著者が勧めるのがストレスの少ない「別荘地移住」であり、「賃貸移住」である。
読了後、「それでも移住したいか」と自問し、イエスなら動き出せばいい。ただし本書を携えながらだ。