【文庫双六】日下三蔵が見せる結城昌治の世界――北上次郎

レビュー

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夜の終る時/熱い死角

『夜の終る時/熱い死角』

著者
結城 昌治 [著]/日下 三蔵 [編集]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480435149
発売日
2018/04/09
価格
907円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日下三蔵が見せる結城昌治の世界

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

【前回の文庫双六】湯ヶ島の河鹿に託した梶井の熱情の切なさ――梯久美子
https://www.bookbang.jp/review/article/556616

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 梶井基次郎は31歳のとき肺結核で亡くなっているが、この病に苦しめられた作家は少なくない。結城昌治もその一人である。

 東京地方検察庁に事務官として就職直後に肺結核となり、国立東京療養所に入院。俳人の石田波郷と同室であったことから俳句を始めた、というのは有名なエピソードだ。

 作品的には、日本ハードボイルドの先駆的作品となった私立探偵真木を主人公とする三部作(『暗い落日』『公園には誰もいない』『炎の終り』)をベストとするが、ここでは今年の春に出た日下三蔵編『夜の終る時/熱い死角』を紹介したい。警察小説傑作選、となっているように、長編「夜の終る時」と、「殺意の背景」「熱い死角」「汚れた刑事」「裏切りの夜」という短編4編を収めて、結城昌治の警察小説の世界が一望できるようになっている。昨年、同文庫から結城昌治『あるフィルムの背景』が刊行され、それが好評だったので結城昌治傑作選第2弾が出たというわけである。ようするに、いま結城昌治の作品を読むことが出来るのは日下三蔵のおかげなのだ。

 それにしても、アンソロジストとして、あるいはフリー編集者としての、近年の日下三蔵の活躍ぶりは驚嘆に値する。その仕事の量だけが圧倒的なのではなく、その質が素晴らしいのだ。たとえば、本書の編者解説には、『夜の終る時』の刊行履歴として、中央公論社、角川小説新書、角川文庫、結城昌治作品集3(朝日新聞社)、中公文庫、双葉文庫の6種があげられている。ところが書影は7種掲載されている。数が合わない? 不思議に思ってよく見てみると、1970年に再版された中央公論社の単行本の書影がさりげなく掲げられているのだ。この書影がなくても編者解説は成立するが、こういう細かなところにも手を抜かないのが日下三蔵流なのである。読者にも編集者にも信頼されるゆえんだろう。

新潮社 週刊新潮
2018年8月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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