“盗用疑惑”で今回は何かとお騒がせ「芥川賞」候補作〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

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送り火

『送り火』

著者
高橋 弘希 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163908731
発売日
2018/07/17
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

“盗用疑惑”で今回は何かとお騒がせ「芥川賞」候補作

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 第一五九回芥川賞を受賞したのは高橋弘希の「送り火」。高橋さんはこれが四回目のノミネートになりますが、たしかに今回がもっとも受賞にふさわしい作品と思う次第です。

 最初、うっかり「田舎の中学に転校した優等生の主人公が、ヤンチャな同級生との交流を通して成長する話」かと思ってしまうんです。でも、読み進めるにしたがって、どんどん不穏な気配を濃くしていき、最後はスプラッター映画もかくやというほどの――。確かな筆力に支えられた、匂うがごとき自然描写が素晴らしい。読み物としての強度も備えた見事な小説です。

 しかし、話題の中心になったのは北条裕子の「美しい顔」ではありますまいか。東日本大震災を取材したノンフィクション作品からの盗用か否か問題で、北条さんに新人賞を与えた「群像」の版元・講談社と、盗用元の一作とされている石井光太『遺体 震災、津波の果てに』の版元・新潮社が真っ向対立。小説の内容とは別のことで話題になったのは、己の身から出た錆とはいえ、デビューしたばかりの作家にとってはかわいそうなことではありました。

 選考委員を代表して会見に立った島田雅彦も「いわゆる盗用疑惑ということに関しましては、はっきりいって、法的な問題というところにまではいたらない」けれど「参照・引用した者の態度というか、誠実さがこの場合は問題になろうかと思います」と言及。作品自体の評価に関しては「若干、フィクション化への努力といいますか、その事実の吟味、あるいは、(略)自分なりのフィクションとしての表現に昇華していく努力が足りなかった」という意見があったとのこと。厳しいなー。熱にまかせて書いたような荒っぽい筆致も目立つけれど、むしろ、その熱量の高さに新人らしい活きの良さを感じて、わたしは好感を抱きましたけどねえ。

 でも、個人的に候補作の中で一番好きなのは町屋良平の「しき」です。思春期に特有な、身体と心、行動と思考、言葉と思いの連結がうまくいかないモヤモヤを、思弁小説とも読める独特の語り口で描いて新しい青春小説を創出。次作を読むのが楽しみな作家です。

新潮社 週刊新潮
2018年8月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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