『白石かずこ詩集成I~III』 白石かずこ著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 白石かずこ詩集成
  • 白石かずこ詩集成 2
  • 白石かずこ詩集成 3

書籍情報:版元ドットコム

『白石かずこ詩集成I~III』 白石かずこ著

[レビュアー] 一青窈(歌手)

生命力満ちた人生謳歌

 「紅葉する炎の15人の兄弟日本列島に休息すれば」(I巻収録)を読んでみて、流れるような言葉遊びに舌を巻いた。ふと井上陽水の名曲「ビルの最上階」が頭をよぎった。いかに多様な人間と状況に囲まれて自分という存在があるのかを教えてくれた一曲だ。人間とは、この地球上でなにが起こっていても、お腹(なか)が空(す)き、自分個人の問題でいつもいっぱいいっぱいなのだ。それでも世の中は回り、成り立っているのだから、大丈夫、私の悩みなんて本当にちっぽけでどんな事もすべて乗り越えられる、と勝手に励まされた。この詩集成には、そんな風にタフで生命力に満ちた人生謳歌(おうか)の言葉がめいっぱい詰まっている。

 <非常に急激に増殖する夏/多産の悪徳の夏に/わたしは みるのだ/わたしたち屈強な十五人の兄弟/この幻以上の真実を/真実の幻を>

 夏の日に突如現れ、増殖し、好き勝手に動き回る登場人物はどれも同じ私ではなかろうか。本来、音楽も人も整合性がとれるものではなく、混沌(こんとん)としていて、制御のできない何かで成り立っている。静と動、保守と革新、正義と悪、それは心という名前の器の中で入れ替わり立ち代わり芽生えるもので、気持ちは好き勝手に山谷を走り回る。歌を歌ったり、人を好きになったりするように、怒りも恨みもとても自然にわき起こる感情なのだ。あえて著者はそれぞれに名を付け、それを兄弟とみなした。私たちは、誰もが心の中に多くの闇と光を抱えている。誰しもが多重人格なのだと思わずにはいられない。普段それらは均衡を保って一人の人の中で上手に生きている。どれもが自分を形作る人格のひとつなのだからつまりは愛すべき兄弟なのである。

 戦後間もない作品を収めたI巻に続き、2巻は1968―84年まで、3巻はその後の、東日本大震災後を挟んで現在までの作品を収める。どこではじめても自由。どこで終わっても自由。フリースタイルのジャズのような大編詩集である。

 ◇しらいし・かずこ=1931年生まれ。詩人。戦後の女性の詩を先導。『現れるものたちをして』で読売文学賞。

 書肆山田 I 5500円、II 6000円、III 6000円

読売新聞
2018年8月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加