『「夫の介護」が教えてくれたこと』
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<東北の本棚>病前と変わらない愛情
[レビュアー] 河北新報
脳出血に倒れ、体の自由を突然奪われた夫と、仕事を続けながら最善のケアを求めて奔走する妻。盛岡市で暮らす医師夫婦に突然訪れた闘病と介護の日々を、妻の視点からつづった。降りかかる困難を強い絆で乗り越える姿が印象的だ。
夫は脳出血の後遺症から、左半身不随に加え記憶力や注意力が低下する高次脳機能障害になった。仙台市の病院で働く妻に何度も電話をかけたり、気に入らない介護スタッフに素っ気ない態度を取ったりするが、すぐに忘れてしまう。妻は夫が経営していた産婦人科の閉院手続きに追われ、転院や自宅介護の準備に忙殺される。
介護保険を使い、人的な支援を得られても、やはり家族の負担は重い。そのような状況の中で著者が心掛けているのは「夫のために、私が元気でいる」「まず自分が幸せになり、夫とわかちあう」こと。仕事に打ち込み、友人と音楽鑑賞や買い物を楽しむ姿は、世の中の介護をする人々へのエールにも思える。介護は想像以上に心身にこたえるからこそ、自分を大切にする必要性を著者は知っているのだろう。
現在、夫は介護施設で暮らす。市内の繁華街を訪れて好物を味わい、車いすで近所を散策することもある。妻には常に全幅の信頼を寄せ、誕生日にはプレゼントを贈るそうだ。
「圭一は左半身が動かないだけで、あとは何も変わっていない。病気ではないのだ」。病前と変わらない夫への尊敬と愛情が、この一言に込められている。
著者は1949年島根県生まれ。国立病院機構仙台医療センター麻酔科部長でエッセイスト。
アスコム03(5425)6626=1404円。