<東北の本棚>さまざまな生命が躍動
[レビュアー] 河北新報
世界自然遺産白神山地を筆頭に、東日本には豊かなブナの森が広がる。本書は岩手県西和賀地方のブナの原生林が舞台。写真家の著者が四季折々の表情や生物の営みを写真と文で紹介し、森の魅力を伝える。
木漏れ日がきらめく夏、錦繍(きんしゅう)の秋、しなやかな枝にまとった雪が輝く冬。森はどの季節も魅力にあふれ、シャッターを切る著者の感動が伝わってくる。中でも印象的なのは、春の日差しを浴びたブナの幹が放射熱で雪を溶かす「根開き」。根元の土が円を描くように現れるさまは、現代アートを思わせる。
群生するカタクリの花、幻想的に光るツキヨタケなど、森の中ではさまざまな生命が躍動する。日本にいる陸生哺乳類の約半数がブナの森に暮らすというのも驚きだ。さまざまな生き物がびっしり描き込まれた生態系のイラストを見ると、ブナの森は生物共同体なのだと実感させられる。
ページを彩る美しい風景や易しい文章には、大切な森を後世に残したいという著者の願いがにじむ。児童書ではあるが、大人も引き込まれる内容だ。
著者は1954年花巻市生まれ。西和賀町在住。自然観察グループ「カタクリの会」代表。著書に「奥羽山系 雪国の草花」(熊谷印刷出版部)など。
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