大森望「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

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大森望「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 鰻重が恋しい猛暑ですが、倉田タカシ『うなぎばか』は、もしうなぎが絶滅してしまったら……という暗黒の未来を描く連作集。廃業したうなぎ屋の“秘伝のたれ”をめぐる家族コメディや、日本の女性会社員4人組がうなぎの代用食材を求めてジャングルの奥深くに分け入る秘境冒険もの、江戸時代に時間遡行してうなぎ絶滅を防ごうとする「源内にお願い」など、趣向を凝らした全5編。

 高見澤俊彦『音叉』は、ご存じTHE ALFEEのリーダーが初めて書いた長編。1973年、大学に進学した主人公の、バンドと恋に振り回される日々……。原宿「DJストーン」や渋谷「エルシド」が実名で登場、喫茶店が若者の溜まり場で、学園闘争が身近だった“あの頃”の東京が鮮やかに甦る。

 ヌーヴェル『巨神覚醒』は、今年の星雲賞を射止めた『巨神計画』の続編。世界各地で出土したパーツを集めて巨大ロボを組み立てる極秘計画を描いた前作に対し、今度は第二のロボがいきなりロンドンに出現。操縦適格者をめぐるエヴァンゲリオン的な謎から、本格SF方向に話が広がる。

 山尾悠子の長編幻想小説『飛ぶ孔雀』は、『歪み真珠』以来8年ぶりの新作。岡山を思わせる土地を主な舞台に、火を運ぶ女子高生、地下世界の公営浴場と温水プール、山頂に建つ頭骨ラボなど、魅惑的な部品がからくり箱のように組み合わさり、千変万化する景色を見せてくれる。

 筒井康隆『夢の検閲官・魚籃観音記』は、孫悟空と観音様の房事を超絶技巧で描く爆笑ポルノ「魚籃観音記」はじめ、80年代以降に書かれた名作・怪作・珍作10編を収録するリミックス傑作選。自身の代表作を台なしにする「シナリオ・時をかける少女」と一緒に、文庫初収録の小説版「12人の浮かれる男」が読める。

新潮社 週刊新潮
2018年8月16・23日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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