「人に頼れない」という人こそ意識しておきたい「受援力」とは?

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「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける

『「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける』

著者
吉田穂波 [著]
出版社
あさ出版
ISBN
9784866670461
発売日
2018/06/03
価格
2,420円(税込)

「人に頼れない」という人こそ意識しておきたい「受援力」とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

もしあなたが今、誰かに頼りたいと思いながら、誰にも言えず自分一人で抱え込んでしまっているとしたら、また、たくさんのものを背負い、苦しんでいてこの本を手に取ってくださったのだとしたら、「今こそ受援力を鍛えるチャンス」なのかもしれません。

人に頼るのが苦手な人は、「こんなこと頼んで悪いな」「迷惑じゃないかな」と、相手に「負担を強いる」ことを申し訳なく思ってしまいます。 しかし、むしろ人に頼ることが、相手のためにも自分のためにもなる、すばらしいことだとしたら、どうでしょうか。(「プロローグ」より)

こう問いかけるのは、医師・医学博士・公衆衛生修士である『「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける』(吉田穂波著、あさ出版)の著者。2011年の東日本大震災で産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わった際、「受援力」の大切さを痛感し、以後は国の検討会や講演などを通じ、「受援力」を学ぶ場づくりに取り組んでいるのだそうです。

しかし、そもそも「受援力」とはなんなのでしょうか?

受援力とは、「助けを求めて、助けを受ける心構えやスキル」のこと。 この言葉はもともと、2010年に内閣府が防災ボランティアを受け入れて地域防災力を高めてもらうためにつくったパンフレット(「地域の『受援力』を高めるために」)に用いられた言葉で、東日本大震災を機に少しずつ知られるようになりました。(「プロローグ」より)

つまり、そんな「受援力」をベースにした本書において、著者は「人に頼ることの大切さ」を訴えているわけです。きょうは第4章「受援力を発揮するための土壌をつくる」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみましょう。

まわりの人をふだんから観察する

困ったとき、誰かの協力を仰ぐときに高い受援力を発揮するためには、ふだんからその相手のことをよく知っておく必要があるそうです。

相手の不得意なことを頼んだり、忙しくて猫の手も借りたいという状況の人にお願いしたりしたら、相手は不快な思いをするかもしれません。しかし、ふだんから相手のことを観察していれば、頼みやすい事柄やタイミングがわかってくるということです。

「あの人はこんなことが得意なんだな」「あの人は朝早くから仕事をして夕方は早めに帰りたいんだな。なにか頼むとしたら夕方4時までに声をかけよう」といった具合に、頼みたい相手と頼みやすいタイミングを身につけておくべきだということ。「力になりたい」と思ってもらえる人を増やすためにも、ふだんからしっかり周囲の人のことを知っておくと役に立つというわけです。

ただし、いざ人の助けが必要になったとき、頼る側が押しつけがましくなってしまわないように気をつけることは大切。そこで、「いつも前倒しでスケジュール管理をしてくださり助かります」「午前中に打ち合わせを入れてくださるので時間に余裕があって聞きやすいです」など、事前に自分が観察して感心したこと、頼れると感じたことを相手にも伝えておくといいそうです。(146ページより)

近くにいる人との関係を深める

「遠くの親戚より近くの他人」という言葉がありますが、もしものときに頼りになるのは、ふだんから近くにいる人たち。とっさのとき、親しい人にこそ物事を頼みやすくなるものだということです。そこで、ふだんから積極的にコミュニケーションをとって相手との関係を深めておくことが大切。

そして、そのうえで自分が抱えているタスクを早めに知らせておくと、頼みごとをスムーズに引き受けてもらいやすくなるもの。これは、頼むことで生じる「申し訳ない気持ち」を軽減することにもつながるといいます。

「いまのプロジェクトに加えてもうひとつ大きな仕事を任されて手が足りないから、もしかしたら君が得意な図表の作成を代わりにやってもらうことになるかもしれない」

「子どもの卒園式があって3カ月後のこの日だけは確実に休みたいんだよね」

といった具合に、先回りして相手に伝えておくということ。その際、「最近、どう? なにか困ったことはない?」「自分のほうでも手伝えることがあったら言ってね」などと、相手を気遣うことも忘れずに。そうすることで、相手もまた、こちらになにかを頼みやすくなり、困ったときに助け合える関係を築くことができるというわけです。

このようなふだんからの心がけで、相手のほうから、「あのとき心配してた案件は大丈夫?」「あのプロジェクト、どうなった?」と確認してくれることもあるでしょう。 いざというときに受援力を発揮するため、余裕があるうちにできることはたくさんあります。(150ページより)

そのため、日ごろから周りにいる人とコミュニケーションをとる頻度を増やして距離を縮め、相手のことを気づかうとともに相手にも自分の状況を知ってもらえるよう心がけることが大事だということです。(148ページより)

先手を打って自分の頼むハードルを下げる

とはいっても、「そもそもいざというときに頼りになる知り合いが少ない」「自分から知り合いの輪を広げることが得意ではない」という方もいらっしゃるはず。また、いまの時代においては、「隣近所とあまり交流をする機会がない」ということもあるでしょう。

あなたがなかなか近隣に住む人と接点を持ちづらい状況であれば、まずは自分のほうからあいさつをするだけでも、相手との距離はぐっと縮まります。 最初は、「おはようございます」「こんにちは」だけでもいいでしょう。(中略)

さらにいいのは、ご近所の方の人となりが少しでもわかるような話をすることです。出身地であったり、最近食べに行ったお店であったり。 このときに大事なのは、まずは自分から情報をさらけ出すことです。自分の話を他人に伝えるのは勇気がいることですが、あいさつを交わすことから始まり、自分が無理のない範囲で少しずつプラスのひと言を添えられるといいのでは、と思います。(151ページより)

なお自分から声をかけ、新しい人間関係を築くことは、相手が職場の同僚や学校の同級生、趣味のサークル仲間、勉強会のメンバーなどの場合も同様。話題は、相手にとって抵抗のないもので大丈夫だそうです。なぜなら相手は、こちらが距離を縮めたいと思っているということがわかっただけで、うれしく感じるものだから。

相手が同僚だとしたら、仕事オンリーの話しかしない関係だと、一足飛びに「休みを代わってほしい」「この内容を教えてほしい」などと頼むのはハードルが高いもの。しかしプライベートの話題も交わす関係ならば、頼むときのハードルは低くなるというわけです。(151ページより)

頼り合える関係につながる上手な断り方

困ったときに頼りやすい関係を築くため、自分自身もできるだけ力を貸してあげられる存在になりたいもの。しかし現実的に、いつでも相手の頼みを聞けるとは限りません。断らなければならないこともあるわけですが、断り方にも工夫できるところがあるそうです。相手と助け合いの関係を続けたいときの断り方のポイントは、次の4つ。

①NOとは言わずに、まず真っ先に謝る

なにかを頼むときには相手も、「引き受けてくれるかな」「断られるのではないかな」「申し訳ないな」と感じているもの。そこで、先に「申し訳ありません」「せっかくですが」「残念ですが…」と謝ってしまうこと。自分の「申し訳ない」という気持ちを、言葉にして先に伝えることが大切だというわけです。

②断る理由を伝える

断られたら、頼んだ相手はきっと気まずい思いをしたり、がっかりしたりするはず。そんな相手の気持ちを軽くするために、「自分がその頼みを引き受けられなかった理由」を伝えるべき。「いまからどうしても外出しなくてはならないんです」など、きちんと理由を伝えることで、頼んだ相手は「断られた理由が自分にあるわけではない」と納得できるということ。

③代案を出す

頼みを断らざるを得なかったとしても、それ以外に自分ができることがないかと探し、それを提案することも重要。相手の力になりたいと考えていることを伝えるだけでも、相手は救われる気持ちになるはずだから。自分が直接は役に立てないとしても、問題解決のために一緒に考えようとしている姿勢が重要だという考え方です。

④相手のことを考えているということを表現する

「ただでさえ忙しいのに、○○さんも大変ですね」など、困っている相手を労う言葉を伝えることが大切。そうすることによって、力になれなくても相手のことを好ましく思い、応援しているという気持ちは伝えるべきだということです。(155ページより)

人に頼ることのメリットを知り、上手な頼み方を身につけることができれば、周囲の人のコミュニケーションがよい方向に変わりはじめ、自分自身も、もっと人の役に立つ存在になれると著者は主張しています。人に頼れない人にとって、それは頼もしい言葉であるはず。だからこそ、ぜひとも本書を参考にしてみてください。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年8月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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