大切なのは動いてみること。そのために試したい「スモール・スタート」という考え方

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スモール・スタート あえて小さく始めよう

『スモール・スタート あえて小さく始めよう』

著者
水代 優 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784046022905
発売日
2018/07/20
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

大切なのは動いてみること。そのために試したい「スモール・スタート」という考え方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

スモール・スタート あえて小さく始めよう』(水代 優著、KADOKAWA)の著者は、グッドモーニングスという会社を経営し、イベントのプロデュース、コミュニティづくり、カフェの運営、地域や企業のPRなど、「人をつなぎ、場を盛り上げるために」いくつもの小さなことに取り組んでいるという人物。

仕事柄、さまざまな働き方をしている人たちと接しながら、「いま、多くの人の仕事のスタイルが急速に変わりつつある」と感じているのだそうです。

多くの企業が長時間労働の見なおしや生産性向上に取り組むなど、労働環境が激変するなか、雇用の流動化もまた加速しています。そのため、10年後といわず5年後にも、いまと同じ会社で同じ仕事を続けられるのはごく限られた人だけになるだろうということ。副業や兼業にこれだけ注目が集まっているのも、「このままこの会社でこの仕事を続けるのは難しい」と感じている人が多いからではないかというのです。

とはいえ、従来の習慣や考え方をがらりと変えるのは現実的に困難。頭ではわかっていても、なかなか実際に動き出せないということもあるわけですが、それでもやはり動くことは重要。なぜなら動かない限り、環境の変化についていけず、いつの間にか居場所を失ってしまうことになるかもしれないからです。

この本は、そんな“悲劇”を防ぎ、これからの時代を恐れず楽しんで働き、そして生きていくために、小さく始めてみませんか、と呼びかけるものです。 小さく始めるとはどういうことか、あえて説明するなら、まずは動くということ、静を動に変えるということです。 でも、それまでじっとしていたのに急に大きく動いては、バランスを失ってしまうかもしれないし、肉離れを起こしてしまうかもしれないし、そういった事態は避けたいと僕なら思います。 だから、「小さく」なのです。(「はじめに」より)

きょうは第5章「会社員のうちに『ライフシフト』する方法」の中から、いくつかの考え方をピックアップしてみたいと思います。

「キャリアチェンジは50歳でするのがいい」と思う理由

著者は30代で会社を辞めて独立したものの、かといってみんながみんな、30代でライフシフトをする必要はないと考えているのだそうです。自身の会社員時代の経験、あるいはさまざまな組織の様子などを見てきた結果として、日本で会社に勤めている人であれば、50歳くらいでシフトするのが適切ではないかと考えているというのです。

それは、日本の会社の仕組みのせいです。 新卒一括採用で入社した同期はみんな、同じような経験をしながら、同じように昇進していきます。でもそれは、45歳くらいまでの話です。

50歳くらいになると、役員になっている人、役員候補になっている人もいれば、そうではない人もいます。きっとそれまでも小さな差は付いていたのだけれど、それがはっきり誰の目にも見えてわかるようになるのが、45歳くらいだと思うのです。

そこで、「あ、自分は役員にはなれそうにない」と気が付いたとき、多くの人はキャリアチェンジ、ライフシフトを真剣に考えるのではないでしょうか。(183ページより)

「50代は会社員人生で最高に給料をもらえる時期だから、それまでの20年以上の投資を回収できないまま50歳で辞めるなんて損だ」という考え方もあるでしょうが、そこから定年までは10年程度。

ましてや、80歳までその会社で働き続けられる可能性は低いはず。だとしたら50歳のタイミングで、いま勤めている会社にこだわらずに80歳まで働ける場に自分を置くべきだという考え方です。

45歳で「まだこの会社で上に行けるかも」と期待が持てていて、そちらに全力投球してしまう人は、シフトのタイミングを逃してしまうかもしれないと著者は言います。定年後だと、少し遅い気がするとも。それまでの人間関係がリセットされた定年後にいきなり起業するのは、リスクが大きいからです。

だからこそ、「定年まで」と「定年後」をきっちり切り分けるのではなく、45歳くらいから少しずつ準備をし、50歳で会社を辞めるのがいいという発想。なお60歳ではなく50歳なのは、50代と60代では、気力や体力がまったく異なるから。

とはいえ、20代から準備をして30代で独立することも可能ではあるでしょう。しかし、それをやってしまうのは、せっかく手に入れた、そして、そこでしか学べないことがたくさんある会社員という立場を手放してしまうということでもあります。それはもったいないことだと、著者は考えているわけです。

会社での仕事は、楽しいことばかりではないはず。とはいえ「そこでしか学べないこと」もあるのですから、20代、30代は修行期間だと考え、少しずつその先の準備をしておくのがいいというのです。(183ページより)

仕事のやり方は、日本中どこへ行っても同じ

気分よく会社員でいられる間は、会社員でいたほうがいい。著者がそう思う理由は、会社でなら、日本でなにかをしようとするとき必要になるテクニックを十分に学べるから。

たとえば報告・連絡・相談、根回しの仕方、稟議書の書き方や通し方、世代の異なる人とのコミュニケーションなどは、どこの会社でやっていくためにも必要なライフスキルであり、どこの会社にいても学べるもの。それだけでなく、10年もいれば立場が変わるため、同じ根回しの仕方でも、違う立場での振る舞い方を身につけることができるわけです。

会社員経験があれば、相手の立場、相手の気持ちなど、いろいろなことがわかるものです。そして、わかれば配慮できるので、相手からは「あいつは会社の外の人間なのに、会社のことをよくわかっている」と、頼れる存在として認識してもらえるということ。

そんな持論を持つ著者は、日本はひとつの“会社”だと考えているのだそうです。みんな、いろいろな企業で働いているし、企業を経営している人もいれば、組織には属さないで働いている人もいます。しかし、そこに共通するルールは、あらゆる企業の最大公約数的なルールでもあるということ。

そのルールで運営されている日本という会社のなかで、僕はできるなら“出世”したいなと思っています。ライバルは、日本全国にいる、同じようなことを考えている人たち。でも、出世するにも条件があります。自分より若い世代に嫌われてまでは出世したくないと思っています。 出世しようとすると、上ばかり見てしまって、気付いたら足元がぬかるんでいたなんてことがないように、足場をしっかり固めて、上を狙っていきたいです。(186ページより)

そのため、日本という会社に共通するルールは守りたいし、守ったほうがいいと思うし、知っていないと損をすると考えるということ。そして、そのルールを体得するには、会社という研修機能を備えた組織で修行をするのが手っ取り早いという考え方なのです。(185ページより)

転勤は「その土地のスペシャリストになる」チャンス

東京で輝かしい会社に入り、意義ある仕事をしようと思っていた人にとってみれば、行ったことのない地方への転勤は衝撃的なことかもしれません。しかし、それは仕事のうえでも、それ以外でも、とても大きなチャンスだと著者は断言しています。特に、30代後半から40代前半くらいで、「出世競争のレースから外れたかもしれない」と感じたときこそ、大チャンスだというのです。

そのような年齢で地方転勤になると、副支店長や所長代理など、ある程度高い役職を与えられることになるでしょう。するとその結果、その地方でずっと仕事をしてきた他の会社の副支店長や所長代理、将来の支店長や所長と対等につきあうことができます。

いいかえれば、その土地における将来の名士と知り合いになれるということ。当然ながらそのようなチャンスは、なかなか手に入るものではありません。

そして名士と知り合いになっておくと、その土地でなにかおもしろそうなことができそうだなと思ったとき、話が早く進みます。もちろん、いつかまた東京に戻ったとしても、その人たちとの縁は続くことになります。いわば、東京では数少ない、その土地のスペシャリストになれるということ。

「第二の故郷」のように、なにかにつけて遊びに行くことができ、また遊びに来てもらえるような関係を築けるのは、転勤経験者ならではのメリットだということです。

支店や支所でそこそこの役職に就けるということは、マネジメントを学べるということでもあります。本社ではマネジメントされる側の人も、小さな組織ではマネジメントする側を経験することができるのです。将来、小さく何かやりたいと思っているのなら、そうしたマネジメント経験は、なによりあったほうがずっといいと思います。(197ページより)

気をつけなくてはならないこと、目配りしなければならない範囲など、マネジメントされている側では気づくことのできない知見が身につくわけです。しかもそれらを、会社から給料をもらいながら、OJTのように学べるのはラッキーなことだと著者。

地方転勤はしておくべき経験だというのは、そんな理由があるから。また、それは子会社の出向についても同じ。同期が経験していない経験を重ねることが、会社の外でのサバイバル能力を高めてくれるというわけです。(196ページより)

基本的には「小さく動く」ことに関する著者の考え方が中心になっているため、実用性という面では物足りなさを感じるかもしれません。しかし、基本的な考え方を変えてみるきっかけを得るためには、読んでみる価値があるといえるでしょう。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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