玉さんが自分の考える粋な男について書いた本

レビュー

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粋な男たち

『粋な男たち』

著者
玉袋, 筋太郎
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784040822112
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

玉さんが自分の考える粋な男について書いた本――【書評】『粋な男たち』吉田豪之

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 浅草キッドの玉袋筋太郎こと玉さんが、自分の考える粋な男について書いた、この本。いまとなっては、このひどすぎる芸名も似合いすぎているから意外なんだが、以前は玉さんも「自分のなかでも、『玉袋筋太郎はこんな男でなくてはならない』というイメージをつくり出すのに必死だった時期もあった」とのこと。「このときイメージしたのが、フィクションの世界で言えば『トラック野郎』の『桃さん』こと菅原文太さんが演じる星桃次郎。そして、ご存じ『男はつらいよ』で渥美清さんが演じた『寅さん』こと車寅次郎さんだった。漫画ならば『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の『両さん』こと両津勘吉。あるいは、『ど根性ガエル』の『梅さん』こと佐川梅三郎もイメージした」んだそうで、そのうちに「玉さん」というフィクションに近い粋な男を演じられるようになったんだと思う。

 思えば『紙のプロレス』の若手編集者でしかない、まだ誰にも知られていないボクを最初に評価してくれたのが浅草キッドだった。

 まずは「自分のコラムの注釈は彼に書いて欲しい」と原稿を頼まれたり、浅草キッドのプロレスラー取材に編集者として同行したりの交流を経て、ボクが水道橋博士の自宅に呼ばれたのは一九九六年。どこまでおかしな顔で免許を作れるのかという無謀かつ無駄な闘い(勝新太郎的に言えば、無駄の中に宝がある)に挑むため免許を紛失したと何度も嘘をついた結果、運転免許証不正取得事件で彼らが無期限の謹慎となり、暇が出来たときのことだ。

 この時期、師匠であるビートたけしは二人に飯を奢りながら、「おまえら、世間を巻き込んでお笑いをやったつもりになっているだろうけどさ、まだまだ小っちゃいよ、やってることが」「オレなんか『FRIDAY』だぞ。天下の講談社を相手にケンカを売ったんだ。それに比べたら、おまえらの騒動なんか小っちゃいよ。スケールが違うよ」とダメ出しをしつつ、「……でも、やってしまったことは仕方ない。謹慎期間は黙ってじっとしていろ。オレも謹慎したけど、オレはきちんと笑いで取り返した。今は苦しい時期かもしれないけど、おまえらもきちんと笑いで取り返せ」と粋なエールを送ったのだという。そして、謹慎中でガソリン代もタクシー代もないことをアピールするために、あえて六本木まで自転車で向かう玉さんもまた粋である。

 この日のことを玉さんはこう語っている。

「それにしても、この日の酒は堪えたねぇ。相当気持ちよく酔わせてもらったんだろうね。オレ、帰る途中に自転車ごと電柱に激突しちゃったんだよ。今は自転車でも飲酒運転になるけど、あの当時はまだ大丈夫だったから。それでおでこに大きな傷ができちゃったんだ。その傷は今でもあるよ、まるで『愛と誠』のような話だよな、ホント」

 さらに続けて、浅草キッドの不仲説が流れるようになったいま、相棒について「この頃、博士が偉かったのは謹慎期間中で収入が途絶えていたにもかかわらず、確か70万円ぐらい出してMacのパソコンを買ったんだよ。そこから、『毎日日記をアップしよう』と考えて、今のメルマガとか文筆活動につながる種を蒔いたんだ。あのときのパソコン購入が、確実に今の博士の武器になっているからね」と語るのも、やっぱり粋なのである。

 ただし、そんな時期だからこそ、この発言に何かを感じるのはボクだけなのか……。

「満たされ過ぎて、胡座をかいてしまうと必ずコケる。なぜだか知らないけれど、オレにはそんな気がしてならないんだ。でも、いまのオレはだいぶ満たされているよ。ホントはさ、そろそろ何かを手放さなければいけないんだよね。でも、最近ではスナック経営をはじめたし、スナック巡りの番組をやっているから酒をやめるわけにはいかない。それに、競輪番組に出演することも多いからギャンブルもやめられない。そうなると、タバコか女のどちらかをやめるしかないのか……」

 ◇角川新書

KADOKAWA 本の旅人
2018年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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