【聞きたい。】石川理夫さん 『温泉の日本史』

インタビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

温泉の日本史

『温泉の日本史』

著者
石川理夫 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121024947
発売日
2018/06/21
価格
968円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】石川理夫さん 『温泉の日本史』

[文] 磨井慎吾


石川理夫さん

■「江戸の前から」はわずか62カ所

 現在、全国に3千カ所以上ある温泉地。歴史の長さをうたう場所も多いが、本書によると江戸時代よりも前から存在するのが史料・物証的に確実な温泉は、わずか62カ所だという。

 「温泉地のパンフレットにはよく『開湯○○年』『日本一古い』などと口上がありますが、言い伝えをそのまま載せているだけで、文献などの根拠を挙げたものはほとんどない。聞く方も半分バカにして本気にしない悲しい状況があります。もう少し何とかならないか、と思いました」

 日本人と温泉の関わりは古いが、そのわりに歴史的な考察が軽んじられてはいないか。本書は記紀や風土記、六国史や貴族の日記などの文献史料を幅広く渉猟し、温泉に関する記述を丹念に収集。歴史学者もあまり真面目に取り組んでこなかった日本の温泉の来歴について、多彩なエピソードでつづる貴重な通史だ。

 格別に古いのは『日本書紀』にも登場する道後、有馬、白浜の3古湯。中世に入ると箱根、熱海、草津、別府という今もメジャーな名湯が歴史の表舞台に姿を現す。入浴を奨励する仏教の影響を受けた温泉信仰も盛んになり、各地で行基や空海ら古代の高僧を開湯の祖とする伝説が生まれた。江戸時代になると湯治旅が一般化し、温泉番付など豊かな温泉文化も花開く。

 そして近代。掘削による温泉開発が始まり、鉄道の発達もあって温泉地は療養から遊興へ、共同湯から旅館の内湯へとシフトしていく。特に近年は大深度掘削技術により、東京近郊のように従来温泉が存在しなかった地域でも、地底の化石海水をくみ上げるなどして温泉を創出可能になった。

 「どこでも温泉に入れる時代になったのはありがたいが、それが本当にいい温泉かという問題はある。やはり地方の歴史ある小さな温泉で、共同湯を通じて地域が成り立っているさまを見て、蓄積された歴史を感じてほしい」(中公新書・880円+税)

 磨井慎吾

   ◇

【プロフィル】石川理夫

 いしかわ・みちお 昭和22年、宮城県生まれ。東京大卒業。会社員を経て温泉評論家に。日本温泉地域学会会長。著書に『温泉の平和と戦争』『本物の名湯ベスト100』など多数。

産経新聞
2018年8月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加