美しいカラー写真で眺める夏の夜空の小さなきらめき

レビュー

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この空のかなた

『この空のかなた』

著者
須藤 靖 [著]
出版社
亜紀書房
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784750515526
発売日
2018/06/23
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

美しいカラー写真で眺める夏の夜空の小さなきらめき

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 ときどき、にわか天文ファンになりたくなる。タイミングは、空気が澄んで星空が美しい真冬か、そうでなければ真夏だ。夏休みには、普段とは違う場所で夜空を見上げる機会があったり、生活時間帯を自由にできる期間があったりと、星に親しむためにはよい条件がそろう。

 そんなわけで私的天文シーズンを、この本とともに過ごしています。宇宙のプロフィールを、美しいカラー写真で見せてくれる。解説するのは当代随一の爆笑名文家、須藤教授だ。ただしこの本では、伝家の宝刀お笑い成分は封印されている。ながらくMr.ビーンとして認識していた喜劇役者ローワン・アトキンソンが、ある日突然陰影のある大人の男メグレ警視になっていたときの新鮮さだ。

 新聞連載なので、一回読み切りの短章形式になっている。初回に紹介されるのがアイザック・アシモフの小説「夜来たる」(原題「Nightfall」)なのも心憎い。太陽が六つもある惑星に住んでいるために夜の存在を知らない人々が、二千年に一度の夜を迎える。初めて星空というものを目にした主人公は「われわれは何も知らなかった」とつぶやく。

「われわれは何も知らなかった」。本書はこの気持ちを、ろうそくの火のように読者の心にともすのである。現在までに人類が知り得た宇宙のしくみや成分、それは決して「宇宙のすべて」ではない。これからもっと仰天する事実が判明するかも。そう思って眺めれば、星空はまったく異なるかがやきを帯びる。そこにあるのは未知そのものではないか。

 これまでに人類が知り得たことを要領よく記述するのが教科書ならば、いまだ知り得ていないものをさぐり、可能性の小さなきらめきを読者に示すのが科学エッセイの役目だと思う。この本のテーマでいえば、宇宙の果て、地球外生命体、パラレルワールドなどなど。たまには雄大な空想に遊んではいかが。

新潮社 週刊新潮
2018年8月30日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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