カリスマ作詞家が明かす 書きたい「何か」を歌詞にする方法
[レビュアー] 西田藍(アイドル/ライター)
中学時代、「残酷な天使のテーゼ」の歌詞を覚えようと、メモ帳に書き写し、登下校中、暇さえあれば眺めていた。メモ帳に記された詩は朗読するものではなく、道すがら私が口ずさむのは歌であった。それは「歌詞」であった。
詩にメロディをつければいいもの(そしてその逆)というわけでもないらしい。作詞家という職業は知っていたが、一体なにをどうすればそのような職業への道が拓けるのか、わからなかった。しかし、この本を読んで、少なくとも作詞の方法はわかってしまった! ラジオ番組の企画で作詞経験はあるのだが、その前にこの本を読むことができていたなら!
「何を書けばいい?」と思った人には詞は書けない、と、著者ははっきりと述べる。教えてくれるのは、書きたい「何か」を歌詞にする方法だけだ。表現したい「何か」さえあるのなら、確実に書ける方法が詰まっている。基礎編は、イメージをふくらませ、収斂させる方法が具体的に書かれている。小説や脚本、エッセイなどとは違い、あらゆる事柄が一つの点に向かっていくのが詞やコピー。曲を聴き、歌詞を聴くときの自分についても、腑に落ちる部分が満載で、ぱあっと晴れた気持ちになった。
章が進むごとに、職業作詞の細かいステップが実例とともに記されている。どの音にどの言葉を当てはめるか、その効果、歌手の声質に合わせた世界観設定。頑張り方、頭のひねり方。なんてわかりやすいのだろうか。ここまで解剖してもよいのか、という制作過程公開の大盤振る舞いには胸が躍る。そして、無意味な努力はやっても無駄だときっぱり教えてくれる頼もしさよ。
まさに教科書なのだが、ところどころからにじみ出る著者の人生観が、実はたまらない。この客観性が、このパトスが、職業作詞家及川眠子を、名曲たちを生み出してきたのだと、すっかり著者本人のファンにもなってしまった。