見誤ってはならない“改憲の論点”

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「改憲」の論点

『「改憲」の論点』

著者
木村, 草太青井, 未帆, 1973-柳澤, 協二, 1946-
出版社
集英社
ISBN
9784087210392
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

見誤ってはならない“改憲の論点”

[レビュアー] 小飼弾

 度重なる不祥事にもビクともしない現政権。こうなるといよいよあの自由民主党の日本国憲法改正草案も実現してしまうのか。それに対して憲法学者はどうするのか。『「改憲」の論点』(木村草太他)を繙(ひもと)いてずっこけた。冒頭で「八つの論点を用意しました。自衛隊明記、新九条論、専守防衛、改憲勢力、アメリカ、解散権、国民投票、立憲主義」。ちがう、そうじゃない。

 現憲法の三大要素は、「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」。義務教育でもそう学ぶ。重要度までは教えてくれないが、この順番以外はありえない。基本的人権を尊重せず国民主権にすれば、一部の国民の人権を残りの国民が多数決で奪うということも正当化されてしまうし、国民の人権が安堵されなければ、平和主義もありえない。現憲法で一番なっていないのはそこである。何しろ第1章の第1条からしてこうである。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」。この「象徴」に基本的人権がないことは残りの条文を見れば明らかである。第22条の職業選択の自由すらないのだから。しかもそれが国民の総意に基づいているとあれば、基本的人権を持たぬ人の存在を国民が認めていることになる。

 一主権者として、私はそんなの認めない。解決すべき矛盾は、第9条以前に第1章ではないか。戦争がなくても奪われている基本的人権がそこにあるのだから。

新潮社 週刊新潮
2018年8月30日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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