『跡を消す』
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<東北の本棚>死と生の意味問い直す
[レビュアー] 河北新報
フリーターで20代の浅井は、偶然知り合った笹川が営む特殊清掃専門会社「デッドモーニング」で働くことになる。仕事の中身は、孤立死や自死など人知れず亡くなった人の部屋の片付けや遺品整理だった。厳しい現場を踏みながら成長する若者の視線を通して死とは何かを問い、生きる意味を描いた小説である。
東北の海沿いにある田舎から逃げ出すように上京し、気ままな生活を送る浅井。1人暮らしをしていた祖母の葬式帰りに寄った小料理屋で出会った笹川に、孤立死した男性の部屋を片付けるバイトを頼まれる。
興味本位に二つ返事で引き受けるものの、むごい痕跡に尻込み。うんざりして遺品を入れたビニール袋を地面に投げ出すと、廃棄物収集運搬業者に叱られる浅井。男性と同じく孤立死した祖母を重ね、痕跡は誰かが生きていた跡と思い直すのだった。
別な現場で遺品を壊したとき、笹川に「他人が大切にしている物を、自分の大切にしている物と同じように扱わないと、この仕事は務まらないよ」と指摘される。
つまずきながらも一つずつこなすことで達成感を抱き始める浅井はやがて、笹川に疑問を持つように。なぜ、「死んだ朝」という意味の社名を掲げ、作業服と喪服しか着用せず、平然と仕事を続けるのかと。その訳を小料理屋で知ることになる。
それぞれに過去を持つ登場人物が織り成す人間模様を踏まえ、現代社会が抱える重いテーマに迫る。
著者は1986年、東松島市生まれ。本著で2017年に第7回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。看護師として働く傍ら執筆する。
ポプラ社03(3357)2212=1728円。