あの王妃は、ヨーロッパ最強のギャル! 吉川トリコ×中島万紀子・対談

対談・鼎談

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マリー・アントワネットの日記 Rose

『マリー・アントワネットの日記 Rose』

著者
吉川 トリコ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101801308
発売日
2018/07/28
価格
649円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

マリー・アントワネットの日記 Bleu

『マリー・アントワネットの日記 Bleu』

著者
吉川 トリコ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101801315
発売日
2018/07/28
価格
693円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【新潮文庫nex『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)刊行記念対談】吉川トリコ×中島万紀子/あの王妃は、ヨーロッパ最強のギャル!

十人十色のアントワネット

中島 私はマリー・アントワネット自体にはこれまであまり興味がなかったんです。「ベルばら」(『ベルサイユのばら』)を読んでもあまり共感しなかった。

吉川 「ベルばら」のアントワネットは気高いですよね。だからちょっと遠い存在に感じるのかな。

中島 ソフィア・コッポラのアントワネットもたしかに等身大でかわいいんだけど、話は合わなそう(笑)。でもトリコさんのアントワネットはとても好きなんです。友だちだな、と思うんです、心の底から。どうしてかというと、「立場主義」とは無縁な人だから。「王妃」や「母」という立場でものを考えるのではなく、本質で考える。

吉川 私は90年代に高校生で、コギャル全盛期だったんですね。私はギャルじゃなかったんですけど、ギャル幻想があるんです。ギャルは無敵、ギャルこそが本質を突くっていう。

中島 ああ~。それは分かる。

吉川 この作品は私のギャル幻想の結晶なんでしょうね。

中島 あとは、この新潮社が誇るアントワネットといえば遠藤周作先生の『王妃マリー・アントワネット』(上下巻・新潮文庫)ですよ! どうですか、これは?

吉川 すごく面白いんです。展開も巧みで、翻訳ものの評伝より読みやすいと思います。でもちょっと、ミソジニー(女性嫌悪)があるんですよね……。

中島 「女特有の○○」みたいに書いてあるところがあって、ぐぬぬ……となる。ただ、さすがの遠藤先生、ぐいぐい読ませます。そしてアントワネットといえば、やっぱりフェルセン(スウェーデンの名門貴族の家に生まれた軍人。フランス遊学中にアントワネットと出会い、恋仲になる)。「ベルばら」ではフェルゼンですが、フランス語読みとしてはフェルセンですね。

吉川 私も「ベルばら」でしか知らなかったんですけど、他の文献も読んでいくと「えっ、嘘でしょ!?」というエピソードの連続なんです。少女漫画かよ!?っていうような史実がたくさんあって。

中島 21世紀に入ってマリー・アントワネット研究が急速に進みまして。アントワネットとフェルセンがやりとりした恋文の暗号が解読されて、本当に二人が恋仲だったことが分かったんですよね。私たちの妄想じゃなかった!

アントワネット人気は日本特有?

吉川 アントワネットは本国フランスでも人気なんですか?

中島 うーん、二年間フランスに住んでいたときには、フランス人からマリー・アントワネットの話題が出たことはなかったですね。日本では一昨年に六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで大規模な展覧会が開かれたり、アントワネットの世界観を模したビュフェに予約が殺到したりしましたよね。圧倒的に日本人女性からの人気が高いと思います。

吉川 やっぱり「ベルばら」の影響?

中島 そうですね。フランスに住む友だちは、アントワネット人気が高いのはアメリカと日本だけじゃない?と言ってました。

吉川 それはどうしてなんでしょうか。

中島 あの華美で豪奢なヴェルサイユ宮殿は現代フランス人の趣味じゃなさそう。「シンプル・シック」が好きな人たちですから。派手好き、エキゾチズム(異国情緒)好きのアメリカ人には合うんじゃないかな。あと、歴史上の人物を「好き」「嫌い」「萌え」みたいな価値観で語るのは、とても日本的な文化だと思います。

吉川 なるほど。キャラとして見るスタンスが根付いている国ですもんね。

我ら、ルイ16世推しです!

中島 フェルセンもいいんですが、なんといっても、我らの推し・ルイ16世についてお話しさせて下さい。皆さんの「ルイ16世観」は20世紀で止まっているかもしれませんね。ルイ16世=錠前ヲタの小デブと思っていませんか? 大間違いですよ!

吉川 肖像画では、国王は実際よりも恰幅よく描かれるものだったみたいですね。

中島 最近歳のせいかちょっとやそっとのことじゃ涙が出なくなっていたんですが……甘かった。アントワネットとルイ16世の最後の別れの場面、朝の東急目黒線で号泣ですよ。

吉川 嬉しい~。

中島 ああ、こういう人だったんだ、って。絶対王政ではなく民主制の時代に生まれるべき人でしたよね。新しいタイプのリーダーだった。それはアントワネットも同じなんです。ヴェルサイユ宮殿の窮屈なしきたりに疑問をもって、それを表明した彼女自身が「革命」だった。そんな二人が革命によってギロチンにかけられて死んだというのが本当に皮肉です。

吉川 ルイ16世はあの時代の王として、マッチョな精神を持て、雄々しくあれ、と「男らしさの呪い」に苦しめられた人だと思うんです。今の目で見ると、現代的で進歩的ですごくすてきな人。ベルナール・ヴァンサンの『ルイ16世』(祥伝社)はそんな人物像に迫っていて、おすすめです。

中島 いや、『マリー・アントワネットの日記』こそ爆推しですから! 私が気に入っているのは、結婚式の最中にアントワネットが大笑いしてしまって「トワネットちゃんオワタ/(^o^)\」というところ。また親切に、ネットスラングやギャル語に編集部から注釈がついてるんですよ。ものすごくなめくさった解説が……。「つらみがエグくて俺氏無理ぽよ」に「『ひどく辛くて私は無理だ』の意。」とか(笑)。100年後には資料的価値も出そう。「平成の日本人はこのような言葉を使ってウェブ上でやりとりをしていたのか」と。

吉川 たしかに(笑)。文体ははちゃめちゃなんですけど、史実に忠実に書きました。

中島 そう。歴史小説ファンにも自信をもって推薦します!

二〇一八年七月二十六日 神楽坂la kaguにて

新潮社 波
2018年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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